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広島高等裁判所 昭和30年(ネ)233号 判決

控訴人(被申請人) 日本化薬株式会社

被控訴人(申請人) 津曲直臣 外八名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人等の申請を却下する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び疎明関係は、左記の事実上の陳述及び疎明関係を追加する外、原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

被控訴代理人において

事実上の陳述として、被控訴人等は、被控訴人等勝訴の原判決言渡後の昭和三〇年一一月七日会社から本件解雇以後の未払賃金相当額の支払を受け、爾来毎月二五日その月分の解雇当時の賃金相当額の支給を受けている。しかし、厚狭作業所の従業員には本件解雇以降現在までに四回の定期昇給があつたが、被控訴人等に対しては全く定期昇給が行われていない。更に又、従業員には毎年二回期末賞与も支給されているが、これも被控訴人等には一度も支給されていない。従つて、日本化薬労働組合では被控訴人等が本件解雇がなかつたとすれば昇給したであろう金額と支給されたであろう期末賞与額に相当する金員をその都度被控訴人に貸付けている。右のような方法によつて被控訴人等の現在の生活はどうにか維持されているが、控訴人が被控訴人等に賃金相当額を支給しているのは原判決がなされたためであり、同組合の被控訴人等に対する右貸付金も本件解雇以来引続き全組合員の零細な拠出金によつてまかなわれているのであるから、それはいつまでも期待できるものではない。してみると、本案判決が遅延することによつて被控訴人等がこうむる生活上の脅威は少しも減少していないし、被控訴人等が作業所内に立入りを禁止される等のことで、組合活動の面で重大な支障を受けていることは、原判決当時と同様であつて、現在においても本件仮処分の必要性は依然として存在している旨陳述した。

立証〈省略〉

理由

第一、当事者間に争いのない前提事実

控訴人日本化薬株式会社(以下単に会社という。)は東京都に本社を置き、全国一二の地に作業所、もしくは工場を有する火薬類、染料、医薬品等製造販売の事業を営む会社であり、会社に雇傭されている従業員は単一組織の日本化薬労働組合(以下組合又は本部という。)を結成し、組合は一五の支部を有すること、被控訴人等は後記の本件懲戒解雇処分の時まで山口県厚狭郡厚狭町所在の会社厚狭作業所(以下単に作業所という。)に勤務する会社の従業員であつたこと、被控訴人等は組合厚狭支部(以下厚狭支部又は単に支部という。)に所属する組合員であつて、作業所における担当職場並びに後記昭和二九年春期賃上闘争(以下単に春期賃上闘争又は賃上闘争という。)中の組合における地位は別紙(一)「担当職場及び組合地位一覧表」記載のとおりであること、支部における組合業務の執行は支部執行委員会がこれを行い、同委員会は支部長、副支部長、書記長各一名及び執行委員十名(当時の実員八名)をもつて構成されていたが、賃上闘争体制に入つてから争議妥結までは組合規約に基き本部指令によつて右執行委員会は支部闘争委員会(以下単に支闘委員会という。)に切換えられ、当時の支部長(被控訴人津曲)が支闘委員長に、副支部長(同野村)が支闘副委員長に、支部書記長(同有福)が支闘書記長に、支部執行委員が支闘委員にそれぞれなつたものであること、組合は昭和二八年九月の定期中央大会において昭和二九年における賃上要求の決議をしていたので、昭和二九年(以下年号を冠しない月日は昭和二九年とする。)二月五、六、七日の中央委員会において賃上要求の具体案を決定し、二月一一日会社にその賃上要求書を提出して交渉に入つたが、妥結に至らないので、三月一日闘争体制をとり、同日本部及び各支部に闘争委員会を設置し、四月二日全組合員の一般投票によりスト権を確立したこと、その後も組合は会社と交渉を続けたが、妥結をみず四月一〇日遂に闘争宣言を発し、四月一七日本社、大阪、福岡を除く各支部に四時間ストライキを実施したのを最初とし、爾後各種の争議行為を実施したこと、右闘争期間中支部においては遵法闘争(但し、これが争議行為であることについては争いがある。)時限スト、部分スト、指名スト、怠業等を実施したこと、この間組合本部が会社との交渉を重ねた結果、ようやく五月三一日に至つて交渉が妥結し、会社との間に賃金協定が成立したこと、会社は一一月一四日付をもつて被控訴人等に別紙(二)「解雇理由書」記載の行為ありとして別紙(三)「適用条項表」記載のとおり就業規則(成立に争いのない疎乙第二七号証)第一二五条第三号第九号第一〇号第一四号を適用し、被控訴人等全員を懲戒解雇に処する旨の意思表示をなしたことは、当事者間に争いのないところである。

第二、被控訴人等に対する懲戒解雇事由の存否

本件解雇が被控訴人等に別紙(二)「解雇理由書」記載の行為があるとし就業規則を適用してなされた懲戒解雇であることは前記のとおりである。しかして、就業規則は、使用者が一方的に定め得るものであるが、一旦客観的に定立せられた以上一つの法的規範として使用者及び従業員双方を拘束し、使用者が就業規則を適用して懲戒処分をなす場合懲戒事由存否の認定、情状の判定、処分の量定等はその自由裁量に委さるべきではなく、使用者は客観的に妥当な適用をなすべき義務を負うものというべきである。殊に、本来懲戒解雇は譴責や出勤停止と異り従業員を企業から排除しその者に精神的、社会的、経済的に重大な不利益を与える処分であるから、従業員に就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する事実があり、しかも参酌すべき情状のない場合に限られ、右の場合でないのに懲戒解雇をなしたときは当該懲戒解雇は就業規則の適用について重大な誤りをおかしたもので無効といわねばならない。

従つて、本件各事件毎に控訴人主張の本件懲戒解雇事由とされた事実の存否につき判断すべきところ、控訴人はこれらの事実に関連して作業所の火薬工場としての危険性を強調するので先ず火薬工場の危険性が争議行為乃至組合活動の正当性の限界、就業規則所定の懲戒解雇事由の存否を判断するに当つてどのように考慮さるべきかについて検討する。

(一)  火薬工場の危険性と争議行為乃至組合活動等

作業所においては各種ダイナマイトその他爆薬の製造、並びに火薬類の製法、使用法、性能等の研究が行われている関係上、火薬類中最も鋭敏強力なニトログリセリンをはじめ各種火薬の取扱量が大量に達し、しかも、これらは裸薬として取扱われているので、わずかの外力によつて爆発する危険があり、万一爆発を起した場合、その殺傷力は強烈甚大、被害の範囲は広範にわたるものであつて、作業所にこのような火薬工場としての特有の危険性のあることは当事者間に争いがない。そして右火薬類の取扱に関しては、火薬類による災害の防止と公共の安全確保を目的とする火薬類取締法、同法施行規則及びこれに基き会社が定めた危害予防規程等があり、その法令、規程は独自の法的根拠に立ち、労働関係法規とは並列的関係にあるものであるから、使用者、従業員の区別なく厳格にこれを遵守すべく、組合が争議行為をなすに際しても右法令、規程に違反することは許されず、これに反する争議行為は法の保護に値しない違法なものというべきであることは、控訴人所論のとおりである。しかしながら、現行の労働関係法規の下においては、火薬工場における争議行為についてなんら特別の制限がなされていないから、火薬工場における労働者は他の一般労働者と同じようにその正当な主張を貫徹するために争議行為をなし得ること勿論であり、火薬工場における争議行為であるというだけでその正当性の範囲を特に一般の場合より狭く解すべき理由はない。従つて、本件争議行為の正当性を判断するについても、それが火薬工場としての作業所の危険性を侵すものかどうかを具体的に観察しつつ、これを一般労働争議の法理に照らして検討する外はない。しかして、争議行為以外の組合活動についても右に述べたところと全く同様のことがいい得る。よつて、以下作業所の前記危険性を考慮しながら、具体的に本件争議行為その他の組合活動乃至被控訴人等の個々の行為について火薬工場の経営秩序に対する反価値性の有無及びその程度を考察し、それが控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当するか否かについて判断することとする。

(二)  個別的判断

(1)  三月一八日職場離脱、電動車阻止事件(同日多数の支部執行委員が労休を濫用して職場を離脱し、電動車の発車を阻止して業務を妨害したこと、被控訴人紺野、阿座上、斎藤(直)、斎藤(孝)、今田、田川に対してその実行行為の、被控訴人全員に対してその計画、謀議、指令の責任を問わんとするもの)

いずれも成立を認め得る疏甲第九号証の一、第一〇、第一一、第九六号証、疏乙第四号証の二に、原審証人武広文次、当審証人田尾喜代松の各証言、原審並びに当審における被控訴人紺野坦、(当審第一回)、田川保彦、当審における野村宏(第一回)各本人の供述を綜合すると、三月一八日午前八時三〇分から被控訴人阿座上、斎藤(直)、斎藤(孝)、今田、田川等が作業所から労休を与えられていたこと、右被控訴人等及び被控訴人紺野は他の二名の支闘委員と共に充電場附近に集り、動力課電動車係職長池田弥一(組合員)に対し当日車輛は始業時刻(午前八時三〇分)になつてから運転せしめるよう指示した上、そのまま充電場前軌条附近で待機していたか、八時二五分頃斎藤(直)は折柄出勤してきた電動車係主任武広文次(組合員)に対しても同様の指示を与えたこと、従来作業所には製品原料等の運搬のため多数の電動車(電源は蓄電池)があつて、その大部分は毎朝始業時刻に充電場から出発し、一部は作業の都合上始業時刻前に充電場を出発して作業現場に向つていたが、右被控訴人等の指示があつたため、当日電動車はいづれも始業時刻まで運転されなかつたこと、八時三〇分始業サイレンの吹鳴と共に田川及び紺野が武広主任に対し電動車のうち警鈴(ベル)のないもの、又は性能の悪いベルが付いているものは運転しないよう命じたところ、武広はベル取付の要否についてしばらく右被控訴人等と論議したが、結局その指示に従つて完全なベルの付いている電動車のみを逐次発車させ、性能の悪いベルは修理させ、ベルのない車輛については動力課長柳井巌にその取付方を申出たこと、電動車の警鈴として従来から自転車用ベルが取付けられていたが、当日実動予定の二九輛の電動車のうちベルの完全なものは一六輛に過ぎず、充電場内にならんで格納されていた車輛のうちからこれ等を選別して発車せしめたため、先ずその操作に時間を要し、右一六輛の発車が終つたのは八時四五分頃となつたこと、他の電動車については係員がベルを修理し、又は予備車や従業員の通勤用自転車のベルを取外して流用し、更に足りない分は柳井課長の命で矢田部幸彦(組合員)が所外から購入して来たベルを取付けるなどしてベルの完備した車輛から順次発車したため、当日運行予定の全車輛の発車が終つたのは午前九時五分頃であつたこと、この間の発車、ベルの点検及び取付等は前記被控訴人等の指示により組合員である従業員の手で行われ、右被控訴人等がその作業及び電動車の発車を実力の行使によつて妨害したものではないことを一応認めることができ、前示疏明資料中右認定に反する部分は採用し難く、他に同認定を左右するに足る疏明がない。

そこで先ず、控訴人は前記被控訴人等(但し紺野を除く)の所為は労休を濫用し職場を離脱してなされたものである旨主張するを以つて考えるに、いずれも成立を認め得る疏甲第六三、第六四号証、疏乙第四号証の一、原審証人桐生戦の証言、原審における被控訴人有福正人(第一回)本人の供述を綜合すると、作業所における労休とは組合員が労働時間中に組合業務に従事するため作業所から与えられる労務休暇であつて労休中の賃金が差引かれる場合とそうでない場合とがあり、有給扱は団体交渉のため等一定の場合に限られていたこと、このうち団体交渉のために与えられる労休は原則として団体交渉に要する時間のみであるが、ただ職場から団体交渉の場所まで距離の遠い者は所属課長の許可を得て団交の場所へ行くに要する時間だけ早く(大体一〇分以内位)職場を離れていたこと、無給の労休は特にその使用目的を限定することなく一般の組合業務のために使用することができ、作業所もその使用についてなんら干渉していなかつたこと、支部役員が闘争指導のために闘争現場へ行く場合は無給の労休を得て職場を離れており、作業所はこのような労休申入を殆んど拒否することなく与えていたこと、当日午前九時三〇分から作業所事務所において団体交渉が行われているが八時三〇分から九時三〇分までの右労休は直接該団体交渉のためのものではなく、一般組合業務に使用できる本来無給扱の労休であつたところ、ただ事務上の手違から後日それが有給労休として処理されたに過ぎないことが一応認められ、右認定に反する疎明資料は採用しない。してみると、右労休は当日午前九時三〇分から行われた団体交渉前の労休ではあるが、それが与えられた当初からその団体交渉のためにのみ使用しなければならないものであつたとは考えられず、前記被控訴人等が右労休時間を以下説示の被控訴人等のいわゆる遵法闘争指導のために各自の担当職場を離れて充電場にいたとしても、これをもつて労休濫用による職場離脱であるとはなし難いから、控訴人の右主張は採用できない。

次に、電動車の発車阻止の点について考えるに、前記のように電動車の発車が所定時刻に遅れたのが被控訴人等のいわゆる遵法闘争の結果であることは明白なところ、被控訴人等は電動車のベルを完備することは労働安全衛生規則、作業心得上の義務であつて、ベル取付や修理等に時間を要し電動車の発進が遅れたとしても、それは法規違反の運転を正規の運転に戻すため必要やむを得ないことで、業務の正常な運営を阻害したとはいい難く、従つて争議行為ではないと主張する。

しかし、労使関係においては現実の慣行的事実が尊重さるべきでいわゆる遵法闘争と称するものも、これにより期待される慣行的事実となつている業務のノーマルな運営が阻害される場合、これを争議行為となすを相当とすべく、いずれも成立を認め得る疏甲第一四五号証の一、二、疏乙第二号証の二、三、第三号証の一、三、第四九号証の二、原審証人武広文次、原審並びに当審証人山末健の各証言によれば、一月二九日作業所の安全委員会においてベルのない電動車のあることが問題になり種々討議の結果、当時用いていた自転車用ベルでは音が低く故障も多いのでもつと性能のよい警鈴を研究することとし、ただそれが完備するまではそのままとし特に注意して運転させる旨の決議がなされたこと、同日作業所安全管理者山末健から小野田労働基準監督署第二課長伊藤雄一に対し右決議について報告がなされたが、同監督署から右措置につき特別の指示がなされていないこと、右委員会の決議は当時電動車係員にも周知され、その後本事件までそのまま各係員が注意しながら前示のような発車状況で電動車の運転業務が継続されてきたこと、支部は当日まで作業所に対して特に電動車のベル完備について何等申入れ乃至要求をしていないことを一応認めることができる。これら認定事実からすれば、右被控訴人等が当日にわかに組合員に命じて早出の電動車を始業時刻まで遅延させた上、始業サイレン吹鳴と共にベルの修理や取付をさせてそれが完備するまで電動車を運転せしめなかつたことは、右安全委員会の決議の効力やその当否如何にかかわらず少くとも当時の慣行的事実と認められる作業所における電動車による運搬業務の正常な運営を阻害したものというほかなく、それが争議行為となること明白である。従つて、被控訴人等の右主張は理由がない。

更に、被控訴人等は右遵法闘争が作業所の業務の正常な運営を阻害したものであるとしても、これは本部の三月三日付桜指令第二号に基く正当な争議行為であると主張し、控訴人はこれを争い、右指令は遵法闘争の準備指令であつてその実施を命じたものではないから、本遵法闘争は山猫争議であると主張するので考えてみるに、成立を認め得る疎甲第六、第五六号証、原審証人岡本京一の証言、原審における被控訴人津曲直臣(第一回)、当審における被控訴人野村宏(第一回)、田川保彦各本人の供述を綜合すると、組合は昭和二九年二月五、六、七日の中央委員会において春期賃上要求についての闘争方針を決定し、該決定に基き、中央闘争委員会は三月三日付桜指令第二号を発して各支部に対し組合員の一般投票によるスト権確立までの闘争組織の強化方針を示し、時間外労働休日出勤の拒否、遵法闘争その他の非協力闘争を各職場会議のなかから生み出すべきことを指示し、右非協力闘争の具体的実施指導のために中闘委員をオルグとして各支部に派遣したこと、厚狭支部では三月一二日の支闘委員会においてオルグとして派遣された神郡中闘委員の指導により前示電動車のベル取付要求を遵法闘争として行うべきことを決定し、一七日の同委員会においてその実施を一八日とし、サービス労働拒否の建前から始業時刻前には電動車を発車させないこと始業時刻になつてから電動車係に不完全なベルはこれを修理させ、又ベルのない車輛にはベルを取付けさせることなどその具体的実施方法を協議し、翌一八日前記のようにこれを実施したことが認められるから、本遵法闘争は本部の指導に基きその統制の下になされた正当な争議行為ということができる。よつて、この点についての控訴人の主張は採用できない。

又、本遵法闘争の実施にあたり組合あるいは支部のいずれからも会社乃至作業所に対し争議通告をしていないことは当事者間に争いのないところである。しかして、組合と会社との間の労働協約が昭和二七年一二月一〇日に失効したことは当事者間に争いがなく、成立を認め得る疎乙第六九、第七〇号証、原審証人岡本京一、高原祥三、当審証人今村久寿輝の各証言を綜合すると、右協約失効後労使間において新たに労働協約が成立するまでの最少限度の暫定協定を締結すべく交渉が行われ、会社において「部分協定」と題する書面(成立を認め得る疎乙第六九号証)をその案として一応作成するまでに至つたものの、その内容について組合との意見が一致しなかつたため、結局双方の署名も記名捺印もなされずに終つたことが認められるので、本事件当時は無協約状態にあつたというべく、そして使用者に対する争議通告は、それが労働協約中に平和条項として規定されてある場合は格別、組合の使用者に対する手続上のことに過ぎず、正当な争議行為の要件をなす本質的なものではなく、且つ争議通告をなすことが組合会社間の慣行的事実であることの疎明もないから、本遵法闘争実施にあたり単に会社乃至作業所に対しその通告がなかつたいうことから、直ちにそれが争議行為として正当性を欠ぐということはできない。

更に、控訴人は右桜指令第二号が遵法闘争の実施を命じたものであるとしても、それは春期賃上闘争における組合のスト権確立(四月二日)前に出された違法な争議指令であるから、これに基く本遵法闘争も違法な争議行為であると主張する。しかし、労働組合法第五条第二項第八号の規定において組合員の投票による賛成を必要とされているのは同盟罷業を行う場合のみであつて、その他の争議行為についてはこれを要しないものと解するを相当とすべく、組合規約(成立に争いのない疎甲第四号証)第九九条第一項にも「罷業権の発動及び停止は組合員の直接無記名投票による投票総数の三分の二以上で全組合員の二分の一以上の賛成を得なければならない。」と定められてあるが、同規約にいう「罷業権の発動」のうちに同盟罷業以外の争議行為も含まれると解すべき理由はないし、慣行上争議行為となる遵法闘争について右規約所定の組合員の賛成投票を要するとされている事実を疎明し得る資料がない。且つ、争議行為としてのその形態や組合員のおかす賃金上の危険の度合からして、同盟罷業とは同視し得ない遵法闘争についてもスト権の確立を経なければこれをなし得ないとすることは不当に組合活動を制限するものと考えられ、且つ理論上からも首肯し難いところであるから、本遵法闘争が四月二日のスト権確立前の本部指令に基いて行われたことを理由にこれを違法な争議行為ということはできない。よつて、控訴人の右主張も採用できない。

なお、控訴人は右のベル取付要求は前記の安全委員会の決議を無視した害意に基く信義に反する行為である旨主張する。しかし、右安全委員会でたとえ前記のような決議が示され、さきに述べたようにその報告を受けた監督署から特別の指示がなかつたとしても、労働安全衛生規則第四二六条第一号に定められている動力車の警鈴備付の義務は所轄労働基準監督署長の同規則第一七一条所定の適用除外の認定を受けない限り免除されるわけではなく、右適用除外の認定があつたことについては疏明がないから、同委員会の決議は単に作業所内部の暫定措置というべく、法規上新らしい警鈴が考案されるまでの間といえども電動車にはその作業の安全、危害防止の必要上、少くとも従来の自転車用ベルは取付けるべき義務があるといわねばならない。従つて、支部がたとえ争議の手段として右ベルの取付を要求したとしても、これをもつて会社に対する害意に基いてなした信義に反するものというわけにはゆかないから、控訴人の右主張も採用することはできない。

叙上のとおりであるから、本件遵法闘争は正当な争議行為ということができ、被控訴人等の個々の行為にも別に違法不当な点は認められないから、前記被控訴人等の行為を支闘委員乃至個人の立場から控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当せしめることはできないし、ましてその余の被控訴人等に右事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(2)  三月一八日電動車ベル持帰取付阻止事件(同日電動車に取付けるベルの購入持帰りを阻止し、またベルの取付を遅くせよと指図する等業務を妨害したとし、被控訴人今田に対しその実行行為の、被控訴人全員に対しその計画、謀議、指令の責任を問わんとするもの)

当日午前八時四〇分頃、自転車用ベルを所外で購入して自転車の荷台にのせて作業所へ帰つて来た矢田部幸彦(組合員)が正門附近で被控訴人今田に会い、そこへ片岡良助(組合員)が来合せたことは当事者間に争いがない。しかして、成立を認める疏甲第九六号証、原審証人矢田部幸彦の証言、原審における被控訴人今田常雄本人の供述を綜合すると、被控訴人今田は別に右時間頃正門附近で矢田部を待受けていたわけではなく、煙草を買いに所外へ出ようとしたところ、たまたま正門のところで同人に出合つたものであること、今田は午前八時三〇分頃まで充電場において前掲(1)の遵法闘争に立合いその状況を熟知していたので、矢田部の自転車の荷台の物がベルであることに感付いたが、同人に対しそれは何かとたずねてみると、同人は自転車のベルだと答えたので、からかい半分に、今頃そんなものを買つてきてもつまらんではないか、すまんが返してこいよといつたところ、矢田部は、そんなことをいつても課長(柳井巌)の命令だから仕方がないと答え、そこへ右片岡がきてベルを受取つて行こうとしたので、同人に対しゆつくりベルをつけてくれよといつて同人等と別れたこと、右のように今田が正門のところで矢田部と出合つてから同人や片岡と叙上の言葉のやりとりをして同人等と別れるまでの時間は数分を出なかつたことが一応認められ、その他の控訴人提出援用の全疏明資料によつても、今田が支闘委員の立場から、その際矢田部や片岡の意思の自由を拘束したものとは認められないし、右の今田の言動を捉えて矢田部や片岡のベル持帰り乃至その取付を故意に阻止妨害したものともなし難い。よつて、本事件に関し今田に控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当する事実があるとは認められず、ましてその余の被控訴人等に控訴人主張の懲戒解雇事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(3)  四月一四日臨時組合大会時間延長事件(同日臨時組合大会の時間を許可なく三〇分延長し、且つこれがため労働時間に三〇分喰込みたるに拘らず、勝手に平常どおりの午後四時三〇分終業を指令して職場を混乱せしめ業務を妨害したとし、被控訴人有福、紺野、斎藤(直)に対しその実行行為の、被控訴人全員に対しその計画、謀議、指令の責任を問わんとするもの)

成立に争いのない疏甲第五、第一二九号証の各一乃至三、第一三〇号証の一乃至五、第一三一乃至第一三三号証の各一、二、疏乙第三一号証の三、第一三一号証、第一三三号証の一、二、いずれも成立を認め得る疏甲第一七乃至二三号証、第六五号証、疏乙第六号証の一、二、第七号証の一乃至四、第三九号証の一乃至五、第五二号証の一、二、三、第七七号証の一乃至四、第七八号証の一、二、原審並びに当審(第一回)証人三戸東治、原審証人高原祥三、桐生戦、河村昭、大庭忠達の各証言、原審並びに当審における被控訴人有福正人(原審は第一回)、阿座上正人、原審における被控訴人紺野坦、斎藤直各本人の供述を綜合すると、四月一四日の支部臨時組合大会は前日作業所の了承を得た上、午後零時三〇分から一時三〇分までの昼休時間を利用し、第三休憩所において開催されたが、同大会は組合の賃上要求について会社側申請の中央労働委員会の斡旋を受けるか否かに関し支部側の態度を決する大会であり、又ストライキ開始直前のことでもあつたので、報告事項や質疑応答が多く、予定の午後一時三〇分の始業時刻になつても、議事が終了しなかつたこと、そこで議長寺坂珍晴が大会を続行するか否かを議場にはかつたところ、多数組合員が続行に賛成したので、議長は支闘委員会に大会の続行につき作業所側の了承を得るよう要請した上議事を進行したこと、折柄支闘委書記長である被控訴人有福が登壇発言中であつたため、いずれも大会に出席していた支闘委員長である被控訴人津曲の命により、被控訴人紺野が直ちに勤労係長三戸東治に電話をし、同係長から約一〇分間の大会時間の延長について了承を得たが、一時四五分頃になつても大会は終了するに至らないので、更に有福が電話をもつて三戸係長に対し再延長について了承を求めたところ、同係長は一応難渋の態度を示したけれども、明確にこれを拒否せず、単に早く終つてくれというあいまいな返答をしたに止まり、そばにいた勤労課長桐生戦も同係長に明確にこれを拒否させていないこと、右大会は午後二時過ぎに終了したが、その際出席組合員及び議長から支闘委員会に対し大会時間は延長されたが、終業時間は延長されることのないよう取計つてもらいたい旨の発言があり、これに対し被控訴人津曲は支闘委員会において作業所とできるだけ平常どおり四時三〇分に終業できるよう交渉するが、詳細は追つて連絡する旨答えたこと、作業所においては当日午後一時三〇分から事務所で課長会議が開かれ、製薬第一課長大庭忠達もこれに出席していたが、午後二時三〇分頃同課長は製薬課膠質係長心得石井旭から電話で午後の作業について指示を求められたのに対し作業時間を三〇分延長するから、その積りで作業を進めるよう指示したこと、大会終了後有福は支部を代表して事務所勤労課において桐生勤労課長に対し大会時間を延長したことについて改めて了解を求め、更に事後措置について協議し、当日は平常どおり四時三〇分に終業すること、大会時間延長のため就労しなかつた約三〇分間の賃金を差引かないことを申入れたところ、桐生課長は大会の延長時間が三八分にも及んだので当日の予定作業量確保の必要上作業時間を三〇分延長することを主張し、これに対し有福は終業が五時になると、交通機関殊に汽車時刻の都合上従業員の帰宅が不便になるので、賃金は差引かれてもよいから平常どおりの終業にしてもらいたい旨固執したので、三時頃同課長は右会議中の大庭課長に支部の申入れを伝え作業の都合をただしたところ、大庭課長からすでに前記のような指示を膠質係に与えていたので五時まで作業しないと困るとの返事であつたので、桐生課長も有福に対し作業時間の三〇分間延長を強く要望したこと、そこで、有福は作業所の作業時間延長の要望について支闘委員会にはかるため、桐生課長に対しその即答を留保し、三時二〇分頃一応協議を打切つて支部書記局に引揚げたこと、作業所長高原祥三は前記課長会議を主宰しながら右協議の結果を待つていたが、桐生課長から有福は五時終業については即答を留保し協議が一応打切りになつた旨の報告を受けたので、もしこのままで四時三〇分に終業となつた場合予定の作業が完了しないばかりでなく、職場に危害が生ずるかも知れないことを慮り、各課長とはかつた上、三時三〇分頃支部からの回答を待たず作業時間を五時まで延長する旨の業務命令を発し、各課長から所轄職制者にその旨連絡したこと、この間有福は支部書記局において津曲に対し作業所との協議の経過を報告し、津曲は有福はじめ被控訴人野村、紺野、田川、阿座上その他の支闘委員等と終業時間について支部の態度を協議したが、阿座上の現場巡視により既に三時一〇分頃から製薬課のうち膠質係では五時終業の予定で作業が進行していることが判明していたので、四時三〇分終業を固執しては混乱を生ずるおそれがあると判断し、支部としても五時終業に同意することとし、三時五〇分頃有福から桐生課長にこれを通知するとともに、各職場にはそれぞれ電話をもつてその旨を連絡し、更に支闘委員等自ら職場に赴いて五時終業の旨を説明して廻り、正門附近にもその掲示を出すなどして組合員に五時終業を周知せしめたこと、午後の作業時間中支部の右指示がなされるまでに、紺野及び斎藤(直)が数名の組合員から終業時間について尋ねられたのに対し支部としては四時三〇分終業の予定で作業所と協議中である旨回答したこと、組合員等は大会終了後四時三〇分に終業できることを期待していたが、支部と作業所との協議の結果についてなかなか連絡がなく、支部側からは四時三〇分終業の態度で協議中であるとの情報が、作業所側からは五時まで就業の予定であるとの情報が入るのみで正式の終業時間が確認できず、その間従業員の心理に若干の動揺を生じ、製薬課膠質係以外は多少作業に円滑を欠くに至つたこと、しかし、午後三時三〇分頃に至り前記のように作業所から業務命令が出され、次いで三時五〇分頃支部からも前記の指示連絡があつたので、全従業員は五時まで作業を続け、当日午後に予定されていた作業は各課とも殆んど支障なく行われ、平常と変りなく作業を完了していることが一応認められるが、三戸係長が有福に対し大会の延長を明確に拒否し、直ちに作業に就くよう要求したこと、支闘委員会が午後二時二〇分頃勝手に前記有福、紺野、斎藤(直)をして各職場に対し四時三〇分に終業するよう指示せしめたこと、職場が混乱して危害発生のおそれが著しく増大したこと、作業終了時に製薬課の各製造工室に残薬が生じたり、他の工室において火薬又は原料が定められた停滞量を超過したことについてはこれを認めるに足る疏明がなく、右認定に反する前示証人、本人の各供述部分並びに疏甲乙各号証の記載部分はいずれも措信できない。他に右認定を左右するに足る資料はない。

そこで先ず右大会の時間延長が無断でなされたものであるか否かについて考えるに、前記疏明資料によれば、従来においても昼休時間中に行われる支部の組合大会が延長されることは少くなく、この場合支部は殆んど三戸勤労係長に申出て大会時間の延長につき作業所側の了解を得ており、そして同係長が支部から大会時間の延長について了承を求められた際通常これに対し必ずしも明確に承諾の意思を表示しないでなるべく早くやめてもらいたいという程度の応答を以て、いわば黙示の承認を与えていたのが例であつたことが一応認められ、従前作業所が大会時間延長承認の申出を拒否し、あるいは大会延長申入諾否に関し支部と作業所との間に問題を醸した等の事実があつたことの疏明なく、本事件の場合はさきに認定したように最初紺野のなした延長の申入については三戸係長が一応これを了承しており、有福が再度なした申入については、右のような従来の同係長の承諾の仕方、並びに前記のような当日の同係長の応答の模様及び桐生課長の右係長や有福に対する態度等を考え合わせると、作業所も当日の大会が中央労働委員会の斡旋を受けるかどうかについて支部側の態度を決する重要な大会であり、又当時既に争議状態にあつてストライキ突入直前の重大な段階におけるものであることも考慮に入れ、その時間の延長を黙示的に承認していたものと認めるのを相当とする。従つて、本事件の大会時間延長については作業所の了解があつたものといえるから、この間の業務停止について被控訴人等に責任を問うことはできない。よつてこの点についての控訴人の主張は採用できない。

次に前記のように大会時間延長による終業時間延長問題のため当日午後職場が混乱し、危害発生のおそれが著しく増大した事実は認められないが、従業員の間に若干の心理的な動揺を来たし、多少作業の円滑を欠いだことはいなめないところであるから、この点についての被控訴人等の責任の有無を考えてみると、前示疏明資料によれば、従来支部の組合大会が延長された場合終業時間が自動的に延長されるというわけではなく、その事後処理として作業時間を延長するかどうか、そして又作業時間を延長しない場合に賃金を差引くか否かについては、その都度作業所と支部との協議で決められその取扱は一定しておらず、当日の終業時間についても右の慣行に従い両者の協議によつて決定さるべきものであつたということができ、同大会の終了の際の状況から組合員等が平常どおりの終業を支闘委員会の交渉に期待したのも余儀ないところであり、又作業所側においても現に前記のように桐生勤労課長が有福の申入れについて協議をし、作業所側も全体としてはその結果を待つていながら、他方大庭製薬第一課長のみは早くから一部作業現場に五時までの作業手配をしたりしていささかその措置に統一に欠いたところがあり、それに右協議の長引いことも相まつて不正確な情報が交錯したため従業員の作業態度に不安定な状態をもたらしめたものと推測される。しかしながら、当日の右協議は、桐生課長においては一般作業量確保の点から、有福においては賃金カツトその他組合員の帰宅の便宜等の点から、それぞれ誠実な交渉が終始したことが推認され、特に被控訴人等が作業を混乱させる目的で協議を故意に紛糾遅延せしめたことを窺い得る疏明はないから、前叙のように従業員の作業態度に多少の不安定な状態を生じたことに被控訴人等が害意を以て積極的に影響を与えたものとはなし難い。従つて、この点について被控訴人等に責任を負わせることは失当である。

叙上のとおりであるから、本事件について被控訴人等に控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(4)  四月一九日、二四日定時出勤阻止事件(一九日(イ)並びに二四日(ロ)就業規則に定める勤務開始時限を遵守せんとする従業員の出勤を集団的に阻止し、また一九日この定時出勤阻止行為と相まつて各職場の鍵箱受領者が鍵箱を受領するのを阻止し、業務を妨害したとし、被控訴人有福(イ)紺野(イ)阿座上(イ)斎藤(直)(イ)(ロ)、斎藤(孝)(イ)(ロ)、今田(イ)、田川(イ)に対しその実行行為の、被控訴人全員に対しその計画、謀議、指令の責任を問わんとするもの)

支部が四月一七日組合統制部示達をもつて組合員に対し四月一九日は午前八時二〇分より同三〇分までの間に入門することを要望する旨を指示し、四月二三日掲示をもつて製薬課組合員に対し四月二四日以降は午前八時三〇分製薬課工務室において配置板により自己の配置を確認し指定の工室に入室せよと指令したことは当事者間に争がなく、成立に争のない疏甲第一一四号証の一、二、五、第一一六号証、疏乙第一一号証の一、二、疏乙第三一号証の三、第一三八号証の一、三、いずれも成立を認め得る疏甲第六、第二四、第二五、第六八乃至第七一号証、疏乙第九号証の一、二、三、第一〇号証、第一二号証の一、二、第四一号証の五、第七九号証の三、四、原審人桐生戦、大庭忠達、岡本京一、当審証人浜岡勇一(第一回)、磯部源吾(第三回)の各証言、原審における被控訴人津曲直臣(第一回)、有福正人(第一回)、阿座上正人、田川保彦、今田常雄、原審並びに当審における被控訴本人紺野坦(第二回)、斎藤直、斎藤孝子、当審における被控訴本人野村宏(第二回)各本人の供述を綜合すると、支部は、前記桜指令第二号に基く非協力闘争として定時出勤を行うことについて中闘委員会と連絡の上、本部から派遣されたオルグの繩田、笠井両中闘委員の指導により四月一四日支闘委員会において午前八時三〇分に入門することが定時出勤であるとの見解のもとに、定時出勤の実施により就業時間前のサービス労働拒否の団体行動をとることによつて賃上闘争の組織強化を計ることを決定し、先ず一七日に前記統制部示達を出し、次いで二三日に前記指令の掲示をしたものであること、

(イ) 四月一九日被控訴人有福、紺野、阿座上、斎藤(直)、斎藤(孝)、今田、田川等は午前八時頃から正門及びその近くの築山、事務所、第一工務所の附近に散在し、紺野は正門守衛所で入門してくる組合員に対し当日は定時出勤であるから八時二〇分まで第一休憩所附近で待機するよう説示し、その余の右被控訴人等もそれぞれの場所で右と同旨の説示をなし組合員等は同被控訴人等の指示に従つてそのまま第一休憩所附近で待機していたこと、紺野及び今田は守衛所に各職場の鍵及び鍵箱を受領しに来た組合員にも八時二〇分までは鍵等を受領しないよう説示したこと、八時二〇分過ぎになつてから第一工務所前にいた田川が、待機していた右組合員等に対して混雑することのないようゆつくり職場に行くよう指示し、これによつて組合員等は一斉に各自の職場に赴いたこと作業所内にはかなり広い地域にわたり作業工室等が散在しているため、正門から各課工務室及び作業現場までは相当の距離があり、特に正門から製薬課及び原薬課の各工務室、休憩所まで約四三〇米、その各作業工室まで約二一〇米乃至七八〇米の距離があり、その上作業員は入門後各工務室に到る途中それぞれ各課休憩所で作業衣に着替えをする必要があるため入門してから右各作業工室に到達するまでにかなりの時間を要し、最も遠い工室に達するには徒歩で約二〇分を要すること、当日は組合員が右のように八時二〇分過ぎに第一休憩所附近を出発したため、少くとも製薬課の組合員の大部分は八時三〇分までに各担当作業工室に到着できなかつたこと、当日非組合員には右定時出勤への参加を求めていないこと、

(ロ) 四月二四日被控訴人斎藤(直)、斎藤(孝)は前記二三日の指令を励行せしめるため、午前八時二〇分頃から製薬課工務室前附近において出勤して来た製薬課組合員に対し八時三〇分に配置板を確認しその後に各職場に行くよう要請し、組合員はその指示によつて右工務室又はその隣接休憩所附近で待機し、八時三〇分になつてから同工務室前の配置板に指示されてある自己の職場を確認した上それぞれの作業工室に赴いたこと、前記のように製薬課工務室から各作業工室まではかなりの距離があるため、組合員が各作業工室に到着したのは八時三〇分以後となり、特に硝ダイ第六填薬工室においては八時四〇分までに到着した組合員は一人もなかつたこと、作業所における全従業員の職場はほぼ定つているけれども、生産作業に従事する者についてはその日の作業計画と必要人員の都合によつて作業現場が多少変更されることがあり、このため作業所では前日終業時頃又は当日始業時刻前に各課工務室前に掲げる配置板によつて当日の従業員の作業現場を指示し、当日出勤した従業員は先ず右配置板によつて自己のその日の作業場所を確認し指定された現場に赴いて就業しているものであること、四月二四日製薬課工務室前には八時三〇分以前から配置板が掲示されてあつたことは一応認められるが、右両日とも前記被控訴人等が、実力乃至威力に訴え従業員の自由意思を抑圧してその出勤を阻止し、又紺野、今田が四月一九日従業員が守衛所から鍵又は鍵箱を受領しようとするのを実力の行使によつて阻止したという点につき、これを疎明するに足る資料はない。

被控訴人等は右両日の定時出勤はいずれも業務の正常な運営を阻害したものではないから争議行為ではなく、仮に争議行為であるとしても正当なものであると主張し、控訴人はこれを争い、右はいずれも山猫争議であつて違法なものであると主張するので、この点について判断する。就業規則第四六条には「始業は午前八時三〇分とし、労働時間には入門から担当職場までの時間を含まない。」旨が定められていること作業所においては午前八時三〇分までに入門すれば遅刻扱にされていないことは当事者間に争がなく、成立に争いない甲第一一四号証の一、三、第一一九号証の一、いずれも成立を認め得る疎乙第四一号証の一乃至五、第七九号証の一乃至三、第一一四号証の一、二、原審における証人桐生戦、原審並びに当審証人大庭忠達、当審証人柳井巌の各証言によれば、従来作業所においては製薬課はじめ各課作業員は各自休憩所で作業衣に着替えた上午前八時三〇分までに配置板に指示された各自作業現場に到着し、始業サイレンの吹鳴と共に作業を開始しており、右時刻に作業現場に到着していない者は極少数に過ぎないこと、前記のように正門から各課の作業現場までは相当の距離があるので、事務所その他正門に近い場所で勤務する者のほか、大部分の従業員は午前八時乃至八時一五分頃には正門を通過して職場に赴いていること、四月一九日及び二四日は右のいわゆる定時出勤が行われたため、製薬課はじめ各課では作業開始が平常より遅れ生産面にも多少の影響があつたことが認められ、右認定に反する疎明資料は採用しない。そこで先ず(イ)の四月一九日の場合について考えるに、当日の定時出勤により組合員が前記のように、団体的行動をとつたため作業開始が平常より遅れたものであるので、その間作業所の業務の正常な運営は阻害されたというほかないから、右定時出勤はこれを争議行為といわねばならない。被控訴人等は作業所においては従業員は八時三〇分までに入門すれば遅刻扱にならないから、就業規則第四六条の規定は死文化し、右のように組合員が一斉に八時三〇分直前に入門して各担当作業現場に赴いたために作業開始が多少遅れたとしても、それはサービス労働が行われなかつたというだけで争議行為とはならないと主張するが、八時三〇分入門が遅刻にならないということは人事考課的考慮として遅刻扱いにされないというに過ぎず、従来作業所における作業が右就業規則の規定どおり八時三〇分に開始されてきている以上、たとえ右時刻までに入門していても作業開始を遅らせることは会社の正常な業務を停廃せしめるものであることに変りはなく、遅刻扱いにならないから右定時出勤が争議行為でないとの所論は到底肯認できない。しかしながら、この定時出勤は前記のように春期賃上闘争の態勢強化のための非協力闘争としての定時出勤の実施を含む前記桜指令第二号に基きオルグの指導により賃上闘争の一環として組合の統制の下に行われた組織的団体行動であるから、正当な争議行為ということができこれが山猫争議であるとの控訴人の主張は採用できない。次に(ロ)の四月二四日の場合について考えるに、さきに認定した製薬課の就業状況から考えてみても、就業規則第四六条にいう「担当職場」とは各作業員が作業を行うべき現場を意味することは明らかであり、二四日も前記のように定時出勤によつて製薬課組合員の担当作業現場到着が始業時刻より遅れ、このため平常どおりの作業開始ができなかつたのであるから、作業所の正常の業務の運営は阻害されたというべきであるが、これが賃上闘争の一環として組合の統制の下に行われたものであることは右一九日の場合について述べたところと同様であるから、二四日の定時出勤も正当な争議行為ということができ、この点についての控訴人の主張も採用できない。

更に、控訴人は右両日の定時出勤はいずれも会社制度の変革、経営秩序の攪乱のみを目的とした害意ある積極的業務妨害行為であると主張するが、支闘委員会乃至被控訴人等にそのような目的があつたことを窺うに足る疎明資料はなく、右両日の定時出勤の実状をみても組合員の労務提供がわずかの時間遅延したという消極的なものに過ぎず、なんら積極的な性質を有するものとは認められないから、本各定時出勤を故意に就業規則の解釈をまげ控訴人主張の如き害意のみを以てなされた積極的業務妨害行為であるということはできない。従つて、控訴人の右主張は採用できない。

叙上のように前記両日の定時出勤はいずれも正当な争議行為であり、右の被控訴人等の個々の行為にも違法、不当な点は認められないから、前記被訴人等の行為を支闘委員乃至は個人の立場から控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当せしめることはできないし、ましてその余の被控訴人等に本事件に関して右事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(5)  四月八日紙筒工室作業中止事件(同日作業中紙筒工室に無断侵入し作業を中止せしめ業務を妨害したとし、被控訴人紺野に対しその実行行為の、被控訴人全員に対してその計画、謀議、指令の責任を問わんとするもの)

当日被控訴人紺野が紙筒工室に入室したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない疎甲第一二一号証の一、六、七、疎乙第三一号証の三、いずれも成立を認め得る疎甲第二七、第七二、第九七号証、疎乙第一三号証の一、第四二号証の三、第五四号証、原審並びに当審証人美川重夫、当審証人伊藤勝の各証言、原審における被控訴人紺野坦本人の供述を綜合すると、紙筒工室は製薬第一課材料係に所属し、紙筒巻作業、薬包紙、被包紙のパラフイン漬作業等が行われる工室であること、被訴人紺野は当日午前一〇時五〇分頃紙筒工室に入り、同工室内で運搬主任伊藤勝と話をしていた材料係長美川重夫(組合員)のそばへ行き、同人に対し話したいことがあるといつたところ、同人もこれに応じたこと、そこで紺野は美川に対し紙筒不足を理由に紙筒工室の労働を強化しないでもらいたい、人員不足ならば臨時工を雇うよう課長に上申してもらいたい、従業員に対するいやがらせをいうことは慎んでもらいたい、貴方は作業所の紙筒外注に協力し職場の者に内密でその外注の世話をしたり、自宅に紙筒巻機械を取付けて紙筒を巻いたりしているそうだが、この際それは止めてもらいたい、職場の問題は従業員の意思を尊重してもらいたい等を要望したこと、当時作業所は紙筒の不足を理由にこれを所外に注文(いわゆる外注)する計画を進め、支部なかんずく紙筒工室組合員はこれに反対していたのにかかわらず、美川は組合員でありながら、作業所の紙筒外注に協力していたので、紺野の右要望に対しては弁解を重ねるのみであつたこと、紺野と美川の話が始まると間もなく同工室で紙筒巻作業をしていた女子組合員約三〇名のうち大部分の者は次第に作業を止め、右両名の周囲に集つてきて、その話を聞いていたが、日頃から紙筒外注問題に関する美川の態度に不満をもつていたところから、同人に対する要望や非難の言葉を口にし始めたので、同工室にいた職長橋本久雄は右女子組合員達に作業に就くよう注意し、紺野も作業を続けるよう指示したこと、紺野は作業再開後もしばらく美川と話を続け、午前一一時二〇分頃退室したことが一応認められるが、紺野の右入室が被控訴人等の計画謀議に基き職場の混乱と紙筒減産を惹起せしめる目的でなされたものであることについてはこれを認めることができず、右認定に反する前示証人、本人の供述部分並びに疏甲乙各号証の記載部分はいずれも措信し難く、他に右認定を左右するに足る資料はない。

そこで先ず、控訴人は、従来支部役員が組合活動のため各工室に立入るには担当課長の許可を受くべきであつたと主張するので考えるに、なるほど就業規則第一三四条第七号には従業員は「直接関連のない作業場に濫に立入つてはならない」旨規定されているが、成立に争いのない疏甲第一二一号証の一、六、七、いずれも成立を認め得る疏甲第二七号証、第七九号証の一、二、第九七号証、当審証人小田敏子の証言、原審における被控訴人阿座上正人、有福正人(第一回)、津曲直臣(第一回)各本人の供述によれば、従来支部役員は組合活動のために各作業工室にしばしば出入し、その際係長等の職制者が居合せたときはこれに簡単な挨拶をする程度であつて、このような入室について各工室責任者も作業所も明確な態度を示しておらず、従来これが特に問題とされたことはなかつたことが認められ、かかる場合いちいち担当課長の許可を要するものとされていた事実を疏明し得る資料はなく、右認定に反する疏明は採用しない。してみると、従来から支部役員が組合活動のため各工室に立入ることは作業所もこれを黙認していたのが慣行であつたというべきである。

次に、前記のように本事件はいわゆる紙筒外注問題に関連するものであるから、ここで該問題の経過を概観し紺野が美川に対し右のような要望をするに至つた経緯について考えてみる。成立に争いのない疏甲第一二一号証の一、四、七、疏乙第一三号証の二、第三一号証の三、いづれも成立を認め得る疏甲第八〇、第八一、第八三、第九七号証、疏乙第四二号証の一、四、第七一、第七五、第一一六号証、原審証人美川重夫、原審並びに当審(第二回)証人大庭忠達、当審証人福久力男の各証言、当審における被控訴人紺野坦、原審(第一回)並びに当審における被控訴人野村宏、各本人の供述を綜合すると、昭和二八年三月作業所は爆薬の需要増加に伴いその生産増強の必要に迫られ、製薬部門なかでも膠質係及び材料係紙筒工室が人員不足の状態となつたが、他面紙筒製造及び爆薬の圧伸包装を機械化する計画も樹てられていたので、人員を増加すると機械化実現の場合該部門の人員整理について問題が生ずるのをおそれ、この際紙筒を下請方式によつて外部に注文製造させ、これによつて生じた紙筒工室の余剰人員をもつて製薬現場の人員不足を補充すべく計画し、その計画実施について同年三月一八日から二〇日まで支部と団体交渉をしたが、支部は将来の機械化の計画については、それが具体的になつた時に交渉するが、現状で紙筒を外注することは組合員の職場を狭め、且つ過去の経験に照らし必要以上の人員整理をもたらすおそれもあり、紙筒外注を下請方式とすること自体にも疑問があるとして作業所の紙筒外注計画に反対し、人員不足は本工員採用によつて補充すべきことを主張した結果、作業所も紙筒の外注実施を留保し、当座の人員不足は臨時工の採用によつて補充するということで一応交渉が妥結したこと、その後も作業所は紙筒を外注にしたい意向を示していたが、右のような経緯があつたので時々の人員不足は必要な期間臨時工で補充して来たこと、昭和二九年一月に至り作業所は改めて生産増大計画を樹て、独逸製自働紙筒製作機、自働包装填薬機の購入によつて紙筒製作、包装及び填薬の機械化を決定し、右機械化実現までの人員不足を紙筒外注による余剰人員の職場配置転換によつて補充しようとし、二月一〇日以降しばしば紙筒外注問題について支部と団体交渉が行われたこと、右団体交渉において支部としては従前と同様の態度をとり、紙筒を外注にした後は倉庫製函の部門においても外注制度をとることが予想されるので、かくては一層人員整理のおそれが大きくなり、しかも紙筒のコスト引下げという点から外注が最善の方法とは考えられず、生産方式の合理化そのものには反対しないけれども、労働者の一方的犠牲によつてこれを強行する作業所の態度には異議があり、機械化実現までの紙筒不足には従前どおり臨時工の採用によつて対処すべきであると主張し続けたこと、その結果三月一六日の団体交渉において作業所から紙筒の外注並びに生産合理化の問題については後日改めて具体的に検討し、その措置を協議決定したい旨申入れ、支部においてもその旨了承したこと、紙筒巻作業は紙筒工室女子従業員(組合員)三〇数名の手によつて行われていたが、紙筒外注問題が紛糾するにつれ右従業員等の間には外注による職場の狭隘化と人員の配置転換に対する嫌悪感、さらには人員整理がなされるかも知れないという不安が増大したが、作業所は人員不足を理由に外注を計画するというのであるから、右女子従業員等はとも角紙筒の生産高を上げて外注に理由を与えまいと、作業時間外にも作業をして生産高の向上に努力したこと、しかるに作業所は三月一六日の支部との右申合せにかかわらず、支部に対し何等連絡するところもなく、三月二〇日過ぎ頃紙筒外注実施の態度を決め、社宅従業員の家族から紙筒巻をする者を募集し、社宅の一部に紙筒巻機械を設置したこと、その頃から美川係長は作業所の意向を受けて内密に右紙筒巻希望者の募集に奔走し、その自宅にも右機械を備付け、更に調査課の福久力夫に依頼して、もと紙筒工室に勤務し紙筒巻作業の経験を有する同人の妻を指導者として夜間右社宅で応募者約一〇名に作業練習をさせ、自らもその指導に参加したこと、紙筒工室女子組合員は三月二五日頃作業所が密かに社宅に右紙筒巻機械を設置したことを知つて憤慨すると共に、従前からの支部の作業所に対する交渉態度にあきたらないものを感じて、翌二六日右組合員等は自ら職場対策委員を選出し、支部との協定に違反して一方的に施行する紙筒の外注には職場としてこれに反対する態勢をとり、右委員はじめ同女子組合員等は三月二九日紙筒外注の説明に来た大庭課長に対し職場従業員としてこれに反対する旨の意思を表明し、同月三〇日開かれた支部青年婦人部大会でも自分達の紙筒外注反対に協力してもらいたいと訴え、更にはその頃から他の職場に進出して右同様の訴えをし、或は社宅の家族達にも貴方達が紙筒外注を引受けることは自分達の職場を奪うものであるからそのようなことは止めてもらいたいと訴えて歩き、活発に紙筒外注反対の運動を展開したこと、ところが作業所においては三月二〇日頃から直接紙筒工室組合員に対して外注の必要を強調して従業員を慰撫し、職場からの外注反対の気運の盛上りを押えようとしたが説得することができなかつたばかりか、却つて従業員等の不安を募らせ、その態度を硬化せしめたこと、四月七日右女子従業員等は既に社宅の一部で前記内職者によつて紙筒巻作業が開始され、しかも自分達の係長であり組合員である美川がその指導や世話をし、その自宅でも紙筒巻作業をさせていたことを知るにおよんで、美川にその事実の有無を問責したけれども、美川はその事実を秘して答えなかつたこと、そこで右職場対策委員達はこの上は支部委員に協力を求める外なしとし、七日午後五時頃支部書記局において被控訴人斉藤(孝)の取次ぎで同紺野に会い、これに以上事実を告げ、且つ美川係長は職場でも主任心得佐村駒男等と共に紙筒外注に賛成の態度を示し、従業員に色々いやがらせを言うので仕事が手につかない、何とか善処してもらいたい旨要請し、これに対し紺野はその翌日美川に会つて話をしてみる旨約束し、翌八日に前示のように紙筒工室に赴いたものであることが一応認められ、右認定に反する前示証人の供述部分並びに疏乙号各証の記載部分はいづれも措信できない。他に右認定を左右するに足る資料はない。

もとより紙筒生産について外注制を採用することは本来会社の経営権により決せらるべき事項であること勿論であるが、右のように作業所自らこれについて支部に申入をして数次の団体交渉を重ね、その最終過程において更に改めて両者の具体的協議にまつ旨約しておきながら、旬日を出でずしてこれを無視し密かに外注作業を始め、同工室の材料係長であるとはいえ組合員である美川にその指導斡旋をなさしめた態度は労使間の信義を裏切るものというほかなく、又美川自身にしても同人が組合員でありながら内密に作業所と意を通じて支部の反対している紙筒の外注に積極的に協力し、職制者の立場からその組合員等に圧迫を加えるが如き反組合的態度は明らかに支部の統制に反しその団結をみだすものであるから、支部執行委員でありその調査部長をも兼ねる紺野が前記のような要請を受けてこれを放置しておくことのできなかつたのも無理からぬところであると考えられる。従つて、四月八日の紺野の行為は、前示のように作業中の紙筒工室において組合員ではあるが係長である美川に対して叙上の難詰めいた要望をし、同工室従業員の作業中止に原因を与えたもので、それ自体はいささか行き過ぎの感なしとしないが、右縷説のようないわゆる紙筒外注問題の発展経過、紺野の紙筒工室入室の経緯とその目的、組合役員等の組合活動のため作業場立入についての従前の作業所の態度、美川が紺野との話合に応じ、同人の右要望に対しては種々弁解を重ねるのみで、その話合の間作業を中止して両者の周囲に集まつてきた女子従業員等に対し作業を命ずることもしなかつた美川の態度、紺野の美川に対する右要望の内容等を考え合わせると、紺野の本事件入室をもつて故意に就業規則第一三四条第七号の規定に違反したものとし、同被控訴人の右工室内における言動を捉えて害意のみを以て同工室の作業能率を阻害し会社に損害を与えたものとは認め難い。

叙上のとおりであるから、本事件における被控訴人紺野の行為をもつて控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当せしめることは妥当でないし、まして本事件になんら関与していないその余の被控訴人等に右懲戒解雇事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(6)  四月一九日、二〇日、二一日紙筒工室作業中止事件(一九日(イ)二〇日(ロ)二一日(ハ)作業中の紙筒工室に無断侵入し、作業を監視して作業能率を阻害し或は作業を中止せしめ業務を妨害したとし、被控訴人津曲(ロ)(ハ)、紺野(イ)(ロ)(ハ)、阿座上(ロ)(ハ)、今田(ロ)、田川(ハ)に対しその実行行為の、被控訴人全員に対しその計画、謀議指令の責任を問わんとするもの)

被控訴人等は本事件は支部が本部指令に基き四月一七日から紙筒工室において実施した正当な怠業の指導行為であると主張し控訴人は怠業についての本部指令の存在を争い、右怠業は山猫争議、紙筒外注反対闘争、積極的業務妨害戦術として違法な争議行為であり、被控訴人等の行為は無断侵入、山猫争議乃至違法な業務妨害であると主張するので先づ本事件の怠業が正当な争議行為であるか否かについて判断する。

成立に争いのない疎甲第四号証、いづれも成立を認め得る疎甲第六、第二九、第九七、第九八号証に原審証人岡本京一、当審証人姉尾孝二、小田敏子、宮原サトヨの各証言、原審における被控訴人津曲直臣(第一回)、有福正人(第一回)当審における被控訴人野村宏(第三回)各本人の供述を綜合すると、組合本部は本件昭和二九年の春期賃上闘争における組合の闘争方針として組合側の蒙る損失が少くてしかも会社側に与える打撃の大きい闘争方式を選びこれを重点的に遂行することとし、三月三日桜指令第二号をもつて各支部に対し減産態勢をとるよう要請していたが、四月はじめの戦術会議においてその実施を決定し、各支部がこれに応じ得る態勢を確立するよう努力したこと、厚狭支部においてはこれに呼応して本部から派遣のオルグ指導のもとに製薬課の膠質係と材料係紙筒工室とを闘争の拠点として争議を展開することとし、先づ紙筒の減産を行えばやがてこれを使用する爆薬生産の一部に打撃を与え得、紙筒工室が従来紙筒外注問題をめぐつて職場組織が比較的強固でしかもその場所が非危険区域にあり、紙筒巻作業が手巻による作業で性質上怠業を行うことが比較的容易であること等の事情から、支闘委員会は四月一五日紙筒工室における紙筒巻作業の怠業を行うことを決定したこと被控訴人津曲、野村は右決定に基き支闘正副委員長として四月一七日始業時刻前紙筒工室休憩所において同工室の女子組合員に対し同日から紙筒の減産に入ることを指令し、同組合員等は同日から右指令により紙筒の生産高を減少せしめたこと、支部の右減産闘争については本部からオルグとして派遣された繩田、笠井、佐々崎各中闘委員、姉尾中闘書記長等がその計画実施の指導に当り、該怠業は五月五日まで続行されていたことが一応認められ、右認定に反する前示証人及び被控訴本人の各供述部分並びに疎明書証の記載部分はいづれも措信し難く、他に右認定を左右するに足る資料がない。

ところが、被控訴人等は紙筒工室の本怠業は、四月一四日中闘書記長姉尾孝二から支闘書記長被控訴人有福正人に対し電話を以て伝達された四月一七日以降減産闘争実施の権限を支闘委員長に一任する旨の桜指令第六号追加なる本部指令により実施されたものである旨主張する。しかし、被控訴人提出援用の全資料によるも、前段の本怠業が支部指令に基くものであるとの認定を覆し、これが右本部指令によるものであるとの被控訴人の前記主張事実を認めるに足る疎明ありとはなし難く、殊に成立に争いのない疎甲第一二一号証の一、三、疎乙第一四九号証の一、二、第一六八号証の一、二、三、原審証人岡本京一、当審証人妹尾孝二の各証言及び当審における被控訴本人津曲直臣、有福正人の各供述に現れている右電話による本部指令なるものの送受話の時刻場所の矛盾、喰違いは、同指令の重要性とも照合すと、該指令そのものの存在はむしろ否定すべきであり、そして又、四月一五日付「桜指令第六号追加の件」と題する書面(疎甲第七号証)が四月一七日から実施の本怠業に先立ち本部から支部に伝達されたことを肯認できる疏明もない。

然らば、前記認定のように支部の指令のみを以て実施された本怠業は、適法な指令に基かずに実施されたいわゆる山猫争議であるかどうかを考えてみるに、正当な争議行為となすには、労働組合あるいは少なくとも争議団として一つの統一的な組織的争議行為であることが必要であつて、いわゆる山猫争議とは組合員の一部が組合全体の意思を無視し勝手に争議行為をなすことを指すもので、単一組合の下部組織であつても、それ自体組合としての組織と実体を備え、現地使用者側との間に団体交渉権限が認められている支部が組合全体として既に争議状態にある場合、特に本部の指令はないが、本部から派遣のオルグ指導のもとにその支部組合員に対し組合全体の意思に副うと認められる支部指令を発し、これに基き同支部が実施した統一的な組織的争議行為はこれを該組合の当該支部における正当な争議行為と解するを相当とすべく、従つて、弁論の全趣旨に照らし厚狭支部は日本化薬労働組合なる単一組合の一支部ではあるが、それ自体組合としての組織と実体を有し、厚狭作業所における労使間の諸問題につき広範囲にわたる強力な団体交渉権限を有するものと認められ、且つ前記認定の本件怠業を実施するに至つた経緯とその経過、態様に照らすときは支部指令により実施せられた本怠業は正当な争議行為と認むべきである。

なお、本怠業の実施に当り組合または支部から会社または作業所に対し争議通告のなかつたことは、当事者間に争いのないところであるが、該争議通告の欠如を以て本件怠業が争議行為としてその正当性がないとなすを得ない理由は、前記(1)事件の遵法闘争につき、その争議通告の欠如と該遵法闘争の争議行為としての正当性につき説示したところと同旨であるから、ここにこれを援用する。更に、被控訴人津曲が美川係長や佐村主任心得に対し本怠業の指令を伝達せず、又三戸係長に対し本怠業が如何なる指令に基く怠業であるかを明示していないことも当事者間に争いのないところであるけれども、これは支部側の本怠業実施の方法乃至は駈引の問題に過ぎず、右のことから本怠業の争議行為の正当性を云為することは失当である。

しかしてまた、控訴人は本怠業は賃上闘争の手段ではなく、これと無関係の紙筒外注反対闘争の手段であるから違法であるという。しかし前記(5)事件の中で認定したようにいわゆる紙筒外注問題は支部独自の問題ではあるが、この問題に関する作業所と支部との間の交渉経過と当時の状態及び前段認定の本怠業を実施するに至つた経過的事実に照らすと、支部が紙筒外注反対問題それ自体とは別に、当面の戦術として紙筒の生産を低下させることは少い犠牲で爆薬の生産量に打撃を与え賃上闘争として効果的であると判断し、オルグの指導を得て本怠業を賃上闘争の一環として遂行したことは明らかで、支部が当時紙筒外注に反対していたからと言つて、本怠業が賃上闘争とは関係のない組合の統制に反する違法な闘争手段であるとは考えられない。控訴人の右主張も採用できない。そのほか、控訴人は本怠業は積極的業務妨害戦術であるから違法である旨主張するが、本怠業はさきに述べたところから明白のように、その第一の目的は組合員の団結によつて紙筒の生産を低下させるというに止まり、その実施において意識的に廃品を生ぜしめたり機械を破壊したようなことは全疎明資料によつてもこれを認めることはできないし、又作業所全体から見て紙筒工室における怠業は紙筒のストツクを減じ、ひいては紙筒を使用する爆薬の生産量を低下せしめるであろうことは明らかで、支部としてもこれを怠業の第二の目的としていたことは明瞭であるが、これも爆薬生産部門の一部に生産低下を来すというに過ぎず、本怠業によつて作業所の業務が麻痺し若しくは特殊の危険発生のおそれを生ぜしめたとの点についてはなんらの疎明も存しないから、本怠業は全体としていわゆる消極的怠業に止まるものというべく従つて控訴人の右主張は採用し得ない。

叙上の通りであるから、本怠業は適法な支部指令に基く春期賃上闘争の一戦術として遂行された正当な争議行為であるということができる。

よつて、次に被控訴人等が支闘委員として怠業中の紙筒工室に入室し、在室することの当否について判断する。成立を認め得る疎甲第二八、第七八号証、第一四八号証の一、二、原審における被控訴人津曲(第一回)本人尋問の結果によれば、本怠業は支部として初めて行う怠業であり、しかも女子組合員によつて実施されるので、支闘委員会はその実施に慎重を期し、具体的にその指導をし且つ怠業中の組合員を激励し勇気付けることによつて作業所や職制者からの圧迫を防ぐ目的で支闘委員並びにオルグが紙筒工室に入室する方針を定め、支闘委員長津曲の指示によつて被控訴人等の大部分が四月一九、二〇、二一日の三日間にわたり交互に怠業中に紙筒工室に入室し、オルグも又入室していることが認められる。元来、怠業は形式的には労働者が使用者に対し不正規不完全ながら労務を提供しつつ、実質的にはこれによつて使用者の労務指揮の一部を排除し自らを組合の支配下におくもので、それがいわゆる消極的怠業に止まる限り、争議権の行使としてこれをなし得るものと解するを相当とするから、組合においてその怠業を適正に遂行せしめるために必要がある場合には、組合役員が怠業中の作業場に立入りその指導統制に当ることも、敢えてこれを違法とはなし得ないと解すべきである。(使用者側において、かかる労務の提供を欲しないのであれば、その対抗手段としてロツクアウトによつて労務提供を拒否し得るのであるし、労務の提供を受領する限りは右の指導によつてむしろ不必要な製品、機械の損敗や労使間の紛争の防止を期待できるのであるから、かく解することが組合側にのみ不当の利益をもたらすものとは考えられない。)殊に本事件においては前記のように、支部として初めてのしかも女子組合員によつて実施される怠業であり、紙筒工室の責任者である美川係長は組合員でありながらしばしば支部の統制に反した行動に及んでいたものであるから、支部において支闘委員をして怠業中の紙筒工室内でその組合員の指導、統制の維持に当らしめる必要が存したものと認められる。

ただ入室及び指導に際しその必要限度を超えたり、暴行、脅迫や所有権の侵害等違法な行為があつてはならないこと勿論であるから、この点について四月一九日乃至二一日における被控訴人等の行為がどのようなものであつたか検討する。成立に争いない疎甲第一四〇号証の一、二、疎乙第三一号証の三、いづれも成立を認め得る疎甲第二七、第二九、第三〇、第七三乃至七八号証、疎乙第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証の一乃至四、第八一号証の一、二、原審証人美川重夫、三戸東治、大庭忠達、当審証人小田敏子の各証言、原審における被控訴人有福正人(第一回)、津曲直臣(第一回)、阿座上正人、今田常雄、紺野坦、田川保彦、野村宏各本人の供述に弁論の全趣旨を綜合すると、

(イ) 四月一九日

被控訴人有福は午前一〇時一五分頃前記オルグ佐々崎中闘委員を伴つて紙筒工室に入り、同工室にいた前顕美川係長に佐々崎を紹介し、佐々崎が中央からきているので一寸話をさせてもらいたいと申入れたところ、美川は作業が停止することは困ると述べたこと、有福はこれを聞き流して同室にいた佐村主任心得(組合員)に対し君が職制の立場で従業員にいろいろ注意することもよく解るが、このような時期だから個人に対してやかましく言うことは止めて欲しい旨を話し、右佐村もこれを了承したこと、そこで有福は紙筒巻用蒸気鉄管の南端附近に立つて女子組合員に対し佐々崎を紹介した上、佐村主任も今後はいやがらせをしないと言つているから頑張つてくれと述べ、次いで佐々崎は簡単な挨拶を述べて頑張るよう激励し、その後再び有福が今頃は皆の代表が団体交渉に出て苦闘を続けている皆もそのことをよく考えて仕事をして欲しいと話したこと、この間女子組合員は作業をやめ、なかには席を立つて右の話を聞いていた者もあつたが、美川も佐村も傍にいて話を聞いており、有福、佐々崎及び右組合員の言動を放置していたこと、有福、佐々崎の話が終ると、女子組合員等は再び自席に帰つて作業を始め、有福は佐々崎を案内して同工室内を巡視して一一時頃までその作業の様子を見ていたが、佐々崎の指摘によつて有福から美川に対し紙筒を入れる箱の中に氏名札を入れさせているのを止めること、昼休前に手洗時間を与えることを要望したところ、氏名札のことは諒承したが、手洗時間のことは係長の権限ではきめられないとの返事であつたので、これ位のことは係長でやれると思うが、若し必要があるのなら課長に上申するよう話し、一一時二〇分過ぎ佐々崎と共に退室したこと、美川は怠業実施の指令を直接には聞いていないが、女子組合員等の作業態度から既に当日怠業中であり、有福や佐々崎はその指導、統制の維持のために入室したものであることを察知していたこと、

(ロ) 四月二〇日

被控訴人今田は午前一〇時過ぎ頃紙筒工室に入室し、同工室の組合員に対し今後の青婦部の行動によく参加するよう指示して数分で退室したこと、被控訴人有福は同一〇時二五分頃同工室に入り、在室中の前記美川に対し組合員に一寸話をしたいと申入れたところ、美川は今は一寸困ると答えたが有福は貴方も居づらいだろうから、しばらく逃げていてもらいたい(外に居てくれの意)と言われ、組合員としては支部の役員である有福の行動に正面から反対する気はないけれども、職制上係長として同工室に在室しながら従業員の作業中止を放置しておくことは気が咎めるので、結局この工室にいないのが良いと考えて同工室を出て松島倉庫課長心得の所へ行き其処で雑談をしていたこと、美川が工室を出た後、有福は女子組合員に対し昨一九日右組合員も出席した団体交渉の席上における高原所長の発言について、所長は感情が高ぶつて強い言葉を吐いたが紙筒工室を廃止するといつたのではないから、紙筒外注のために紙筒工室が閉鎖になると思うのは誤解であり、所長の言葉を気にすることなく頑張るようにと説明し激励したこと、この間一〇時三〇分過ぎ頃被控訴人津曲、阿座上、今田は右工室の入口にいた佐村主任に挨拶して入室し、有福の話を聞いていたが、一〇時五〇分頃有福の話が終つて阿座上、今田が退室し、津曲が有福に代つて右団体交渉における作業所側の態度に不安がることなく、又減産闘争中であるからと言つてあわてることなく、もつと生産を上げてもよいから冷静に行動するよう説諭したこと、美川はしばらくして右工室へ引返して来たところ、未だ前記有福の話が続いていたのでこれを大庭課長に報告し、同課長は美川と共に同工室に入つたところ、丁度津曲が話をしているところであつたので、これが終つてから津曲に対して何故作業を止めさせて話をするのかと尋ねたが、津曲からもつと冷静に仕事をするよう話をしていたのであるとの説明を受けて一応これを了承し、津曲、有福はその後もしばらく在室していたが一一時三〇分頃退室したこと、有福や津曲が話をしている間女子組合員の大部分は作業を止めてこれを聞いていたこと、

(ハ) 四月二一日

被控訴人津曲は午前八時四〇分頃前記美川係長と共に紙筒工室に入室した上、女子組合員等に対し今日も昨日と同じ位の紙筒を巻くようにと指示し、右組合員等の作業振りを見ていたが、途中九時過ぎ頃大庭課長が入室して来たので、同課長と暫時雑談し、その際同課長は被控訴人等の入室方法について津曲と話合つたが、今までは紙筒工室への入室については別に問題とされたことはなかつたので、津曲は入室を禁止するのならば正式に作業所から組合に申入れをしてもらいたい旨意見を述べ、その後も大庭課長と共に在室して一〇時頃退室したこと、被控訴人田川は一一時過ぎ頃入室して組合員の作業振りを見ていたが、間もなく前顕三戸勤労係長が入つて来たので同係長と雑談していたところ、同係長が入室したことを知つた被控訴人津曲、有福、阿座上等も同工室に入つて来たこと、三戸係長はその入室のときから当時女子組合員が怠業中であり右被控訴人等はその指導のために来たものであることを知つていたけれども、これを知らぬ風を装つて、津曲に対して皆サボつているようだがこれは組合の指令でやらせているのかと尋ね、津曲もとぼけていやそんなことはないと返事してしばらく雑談していたが、一一時三〇分頃三戸係長が退室したので、やがて右被控訴人等も退室したこと、午後三時三〇分過ぎ頃有福は再び紙筒工室へ入り、美川に対して組合員に話をしたい旨述べたところ、美川は当日午前一一時頃所長から組合員であつても職制上の立場を自覚して行動するよう要請されていたので、作業を止めさせて話をするのなら勤労課を通じてからにしてくれと答えたため、有福はとかく支部の統制に服しない美川に気を悪くし、それではとに角貴方は逃げていてくれといい、美川は邪魔者扱いされることを不満に思つたけれども、結局前記二〇日の場合と同様一時のがれの考えから同室の外へ出たこと、そこで有福は女子組合員に減産についての話をし、又主任心得の前記佐村と紙筒の生産本数について話をしたりし、三時四〇分過ぎ頃三戸係長が美川をつれて入室してきたときには組合員等は作業していなかつたこと、三時五〇分頃大庭課長が入つてきたが作業を命ずることなく、有福には従業員に話すことがあるといつて女子組合員等に室内の清掃をさせた上、四時頃同工室全従業員を室外の休憩所に集めてこれに話をしたこと、

は一応認められるが、右三日間を通じて大庭課長、三戸係長及び美川係長がそれぞれ前記被控訴人等及び佐々崎中闘委員に対してその入室を拒否し又は退室を要求したこと、四月一九日有福が女子組合員を集めるため美川係長の意思を抑圧したこと、紺野が四月二一日に紙筒工室に入室したことについてはこれを認めることができない。しかして右認定に反する前示証人、本人の各供述部分並びに疏甲乙各号証の記載部分はいづれも措信できない。他に右認定を左右するに足る資料はない。

そこで考えるに、前記のように有福は四月一九日に佐々崎を伴つて入室しているけれども、佐々崎はオルグとして派遣された中闘委員であつてその入室も別に不法な手段によつたものではないから、これも特に咎める程のこととは考えられないし、右両名が組合員に話をしたのは怠業についての平穏な指導激励の程度に止まり、当日有福が佐村や美川に話をしたのも組合員に対する軽い注意、責任者に対する作業上の要請を入室したついでに述べたという程度に過ぎない。又、有福が美川に対して同月二〇日に「貴方も居づらいだろうからしばらく逃げていてもらいたい。」と言い、二一日に「とに角貴方は逃げてくれ。」といつたことはいづれも指導統制のための行為としては多少行き過ぎのきらいがないでもないが、右認定の事実によればその意味するところはいづれも組合の統制のさまたげとなるようなことにならないようにしてくれという程度のものと考えられ、美川が工室から出たのも自己の意思に基くものであつて、有福が美川の係長としての地位を否定し、これに威迫を加えて不法に室外に退去させたものとは認め得ないから、前記のように従来からの美川の反組合的な態度に照らせば右の有福の言動も敢えて咎めるわけにもゆかない。有福のその余の行為、被控訴人津曲(二〇日二一日)、阿座上(二〇日二一日)、今田(二〇日)、田川(二一日)の各行為も未だ指導、連絡、在室による勇気付の範囲を逸脱したものとはなし難く、組合員又は作業所職制者に対して暴行脅迫に及んだことも認められない。尚前記三日間とも右被控訴人等が女子組合員等に話をし、右組合員等がこれを聞いていた間、紙筒巻作業が一時中断したことがあるが、もともと紙筒巻作業は怠業中であり、右作業の中断によつて危険のおそれが生じたことや、廃品若しくは機械の損壊を生じたことについてはすでに述べたようになんらの疎明もなされていないから、かような作業の一時的中断も怠業の過程における一現象と考え得べく、これを特に違法とするわけにはゆかない。従つて前記三日間における右被控訴人等の各行為はいづれも一応怠業指導、統制維持の範囲内のものであつて、それがほしいままになされた会社の職場管理権を排除した不当職場支配とは認められない。

前叙の通りであるから、本事件における前記被控訴人等の行為を支闘委員乃至個人の立場から控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当せしめることはできないし、ましてその余の被控訴人等に右事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(7)  四月三〇日外注紙筒倉入阻止事件(同日桜ケ原社宅前にて外注紙筒の運搬を妨害し、四号倉庫前にて外注紙筒の倉入を阻止し、業務を妨害したとし、被控訴人阿座上、斎藤(孝)、今田、田川に対しその実行行為の、被控訴人全員に対しその計画、謀議、指令の責任を問わんとするもの)

成立に争いのない疏乙第二三号証、第三一号証の三、いづれも成立を認め得る疏甲第三一、第三二、第八二、第八三、第八四号証、第九三号証の一乃至四、第九七、第一〇六号証、第一二五号証の一、二、第一二六号証の一乃至三、第一二七号証の一乃至三、第一三九号証の一乃至七、疏乙第一七号証の一乃至四、第四五号証、第五六号証の一、二、第八二号証、原審証人桐生戦、大庭忠達、美川重夫、松島俊三、当審証人木田アヤ子の各証言、原審における被控訴人津曲直臣(第一回)、野村宏(第一回)、阿座上正人、田川保彦、今田常雄、斉藤孝子各本人の供述に弁論の全趣旨を綜合すると、作業所は前記のような経過で密かに外注を始めていたが、支部が賃上闘争のため四月一七日から紙筒の減産を実施したので、作業所も二一日から本格的紙筒外注生産を行わせ支部の怠業に対抗し始めたこと、そこで支部ではこのまま外注紙筒の生産が続けられ、その製品が搬入、使用されるにおいては実施中の紙筒減産闘争はその実効を滅殺されるばかりでなく、紙筒外注問題自体もますます紛糾するに至ると考え、作業所に対し外注によつて作業所外で生産された紙筒はしばらく所内に搬入しないよう申入れを行い、二七日から団体交渉を開始したが、作業所はこの交渉を継続しながら、他方では翌二八日密かに外注によつて生産された紙筒を所内四号倉庫に搬入したこと、同日事後にこれを知つた支闘委員会は作業所の右態度に憤激し、その対策として以後組合員は外注紙筒の運搬及び使用を拒否することとし、職制の圧迫のため運搬を拒否できない場合は支部の指令でその業務を放棄させることとし、三〇日昼休時間に開催された支部臨時組合大会でもこの方策が確認されたので、同日午後二時頃支闘委員会は作業所側が外注紙筒の倉入を強行する際には、四月二〇日付桜指令第九号によつて本部から支部長(支闘委員長)に委嘱されている部分スト指令権を行使し、外注紙筒の運搬に従事する組合員の指名スト、紙筒工室の部分ストを実施して作業所に対抗することを決定したこと、三〇日午後二時三〇分頃前顕松島倉庫課長心得は同大庭課長から外注紙筒を搬入するよう依頼を受け、自ら指揮して小型貨物自動車(トヨペット)を運転手植野康人(組合員)に運転させ、佐藤功士(非組合員)とこれに同乗して作業所近くの桜ケ原社宅に向い、同社宅本田方前道路上において、同社宅の内職者が製造して木箱又はダンボール紙箱に納めてある紙筒を同人等でトヨペットに積込んでいたこと、支部ではトヨペットが右社宅に向つたことを知り、被控訴人津曲は様子を見に同今田を走らせ、同阿座上に対し右トヨペットは外注紙筒を運搬倉入するために社宅へ行つたものであろうから、作業所側の者や組合員に紙筒の搬入をしないよう説得し、これが効を奏しなければ運転手その他運搬に従事する組合員を指名ストに入れるよう命じて社宅に赴かせ、同田川をしてこの旨を作業所に通告せしめたこと、今田ついで阿座上が前記社宅に到着したときは既にトヨペットに紙筒が積込まれてあつたので、同人等は松島課長心得に対してこの紙筒をおろしてもらいたい、組合は組合員によつてこれを運搬するのを認めることはできないと申入れ、植野運転手にも同様の説示をしたが、同人は上司である松島がいるためその説示に従うことを躊躇し、松島は阿座上の申入を聞き流し植野を促し発車せしめようとしたので、阿座上は午後二時五〇分過ぎ頃松島に対し植野を指名ストに入れる旨を告げ、植野をしてその時から午後三時三〇分まで業務を放棄せしめたこと、そこへ田川がきて阿座上から事情を聞き同人と共に松島に対し紙筒の搬入をしないよう申入れたが、松島はこれをも聞き流し、折柄来合せた守衛鍵本茂(非組合員)にトヨペットを運搬させ自らもこれに同乗して所内四号倉庫に向つたこと、トヨペットは数分を出でずして所内四号倉庫前に到り、車の方向を切換えバックして後向きに倉庫扉前約一米半のところに停車し、松島が降車して自ら倉庫の扉を開けようとしたところ、朝から外注紙筒の搬入に備えて見張りに立つていた被控訴人斉藤(孝)及び二名の女子組合員は扉の前に立ちはだかり松島にその紙筒を倉入しないで欲しいと申入れ交渉を続けているうち、今田も自転車でそこに到着してこの交渉に参加したこと、一方阿座上は急拠支部書記局に帰り、津曲に前記の経過を報告したところ、津曲から直ちに紙筒工室組合員を部分ストに入れその女子組合員を四号倉庫へ行かせ、紙筒倉入の阻止に当らせるよう命ぜられたのですぐ紙筒工室に走つたが、途中大庭課長に出会い、走りながら紙筒工室を部分ストに入れる旨を告げ、三時五分頃右工室に到り既に外注紙筒の搬入を知り、ピケットに参加することを予期して立上りかけていた女子組合員に右指令を伝え、部分ストに入つた女子組合員三〇数名と共に右倉庫前に到つたこと、四号倉庫前では既に前記のように斉藤(孝)、今田が松島と交渉していたので、阿座上も之に加わつて倉庫前広場で交渉を続けたが、やがて駈付けた大庭課長や鍵谷経理課長等に対しても右紙筒の倉入をしないよう申入れ、紙筒外注については従来から大庭課長が権限をもつて支部に対していたので、右広場では作業所と支部との交渉の形で右外注紙筒の取扱に関する話合がなされたこと、この間右女子組合員三〇数名は斉藤(孝)を中心に右倉庫扉前附近に集りスクラムを組み、松島に倉入しないよう呼びかけ、或は右交渉を声援し、中には松島の態度を非難し、これに悪口を放つ者もあつたこと、大庭課長、松島課長心得等は広場における交渉の結果、この上強いて倉入することは組合側を不必要に刺戟し激昂させ紛糾を大きくするのみであると判断し、三時二〇分頃右被控訴人等の申入を容れて紙筒の倉入を取止め、トヨペットは紙筒を積んだまま車庫にこれを格納させたこと、女子組合員等が部分ストに入つてから倉庫前に到りやがてトヨペットが立去るまでは約一五分間で、トヨペットの退去と共に右部分ストは解除されて組合員等は直ちに職場に復帰し、大庭課長はこの部分ストについて職場離脱証明書を支部に交付したこと、元来右証明書は従来の慣行によつてストライキ実施の際その職場の離脱が安全且つ完全になされた旨をその職場の担当課長と代表組合員(職場闘争委員長)が立会確認の上作成し、支闘委員長宛に交付されるものであり、当日は職場離脱の際その後片付が多少乱雑なところがあつたけれども大庭課長はこれを黙許し、右スト終了の後に至つて作成交付したものであることが一応認められるが、今田、阿座上、田川が前記社宅前で松島課長心得に対して威圧的な態度を示したこと、右倉庫の扉の一部が破損したこと、前記被控訴人等若しくは女子組合員等が厳重なスクラム態勢を示し又は右課長心得その他の課長に対し積極的な物理力を行使したことについてはこれを認めることができない。しかして、右認定に反する前示証人、本人の各供述部分、並びに疏甲乙各号証の記載部分はいづれも措信できない。その他右認定を左右するに足る資料はない。

そこで先づ、控訴人は本事件は支部のみの問題である紙筒外注反対のための争議行為であつて、支闘委員会が賃上闘争のための部分スト権を不当に行使し又はその独断により外注紙筒倉入阻止の目的で強行した山猫争議であると主張するが、既に述べたように本事件当時支部においては組合の賃上闘争の一環として紙筒工室の怠業が実施されており、この怠業の効果を滅殺するような組合員その他の者の行為に対して許された範囲内で争議を実効あらしめる対抗手段をとり得ることは後に述べるとおりであつて、支部が前記のように外注紙筒の搬入を看過しては怠業の実効が失われると判断し、これを防止するためなした本事件所為もやはり賃上闘争の一環をなすものといえるから、従来から支部が紙筒の外注に反対していたからといつて本事件が賃上闘争と関係のないものとするわけにはゆかない。従つて控訴人の右主張は採用できない。

次に、本事件が正当な争議行為の範囲内のものであるからどうかについて考えるに、労働組合が企業の一部門において実施する怠業の目的は単にその部門の生産を低下させることにあるのみでなく、怠業部門の製品を使用する他部門の生産にも打挙を与えようとすることにある場合が多く、従つて、この場合使用者が怠業による製品不足を補い、これによつて他部門の生産を上げるために組合員その他の従業員を使用して他から同種の製品を搬入しようするのを阻止し、もつて怠業の実効を挙げようとすることは組合として当然の要求であり、組合員が使用者側からその搬入業務を強いられる場合にはその者にストライキをかけてその就労を放棄させ、又組合員その他の者に対するピケッティングによつてこれを阻止することも争議の実効を確保するための手段としてなし得るものと解すべきである。しかして、そのピケッティングにおいても暴行、脅迫を以て右搬入行為を阻止するが如き行為は勿論、該搬入作業に従事する者の行動をその意思に反してまで拘束することは許されないところであるけれども、組合員が結束して搬入しようとする者を見張り、言論によつて説得し或は団結による示威その他組合側の威力行使が諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められない手段により搬入者の意思に働きかけてその搬入を思い止まらせることは違法なことではない。尤も使用者及び支配人、工場長或は部課長等使用者側利益代表者は本来争議の相手方であるから、その職務の遂行をピケッティングで阻止することは、原則として言論による平和的説得をほかにしては許されないと解すべきであるけれども、若し右使用者側利益代表者のうち職務上非組合員とされるに過ぎない部課長が自己の本来の職務の範囲を超えて一般従業員の職務である搬入作業を行うというようないわゆる代置労務に就くときは、右部課長はもはや部課長たるの職務を遂行するものではなく、新たに一従業員としての労務を提供するものであるから、このような場合組合が正当な範囲内の威力行使の手段によつてこれを阻止しても相手が部課長であるというだけで直ちに違法とはなし得ないものと解するを相当とする。これを本件についてみるに、成立に争いのない疏甲第四号証、第一〇七号証の二、第一二三号証の四、五、疏乙第一二五号証の三、いづれも成立を認め得る疏甲第一〇七号証の一、三、四、疏乙第一七一号証、当審証人松島俊三(第一回)、古谷操、池田明、河村久の各証言及び原審における被控訴人田川保彦本人の供述を考合すと、課長心得は職制上課長と同じ職務を行うものであるが、組合では課長心得は課長と異りこれを当然には非組合員として取扱つておらず会社の申入れがあつたものについて協議の上、非組合員とするものを個別的に決めていたこと、本件賃上争議中に他の工場では課長心得のうちに組合員として争議に参加していた者もあること、松島は従前から組合員であり本件争議開始より少し前の昭和二九年二月課長心得に昇進したばかりで、就任後松島は組合から脱退したい意思を表明し、会社も同人を非組合員とすることについて申入れをし、組合と協議していたが、本件争議期間中はその結論が出ず、同年一二月に至つて初めて非組合員とされたことが認められるから、右松島課長心得は同年一二月までは形式的には未だ組合員としての地位が継続していたということができる。しかし、右疎明を綜合すると、松島は本件賃上争議において専ら会社側に立つて行動し、支部も同人に対し事実上その統制力を及ぼし得ず、同人を組合員として取扱つていなかつたことが窺えるから、これらの事実からみると、むしろ当時同人は労使関係において既に事実上非組合員であつたと認むべきである。そして、さきに認定したように当日松島は課長心得でありながらその本来の職務行為とは認め難い自らトヨペットに同乗し、前記植野、佐藤等従業員と共に外注紙筒の積込作業を行い、且つこれを倉入するために倉庫に到つたものであるから一作業員としての労務を代置提供していたものというべく、従つて、本事件におけるピケットが松島に向けられた点を非難するのは失当である。ところで、前記社宅前において被控訴人阿座上、今田が松島課長心得に対してこの紙筒をおろしてもらいたい、組合は組合員によつてこれを運搬するのを認めることはできないと言つたのは、前後の事情からみて外注紙筒は運ばないでもとの場所へ返してもらいたいという意味のものに過ぎず、なんとしても地面に紙筒をおろさせようとして言つたものとは考えられないし、その言動自体が威圧的であつたことの疎明もない。又その後田川が阿座上と共に紙筒を運搬しないよう申入れたのも言論による平穏の説得の範囲を出るものではなく、松島は植野運転手が指名ストにより業務を放棄した後も、阿座上や田川の説得を聞き流し、非組合員に運転させて右両名や今田からなんらの抵抗を受けることなく発車しているのであるから、右社宅前における阿座上、今田、田川等の行為はピケッティングではあるけれども、それがその正当の範囲を出るものとは考えられないし、植野運転手に対する指名ストが正当なものであることは後掲(10)の(二)に述べるとおりでこれを違法な業務妨害ということはできない。次に、倉庫前においては、前記のように斎藤(孝)及び女子組合員二名が扉の前に立はだかつて倉入しないでくれと松島に申入れ、これに今田も加わつて口交渉しているところへ紙筒工室の女子組合員が駈付けスクラムを組んで倉入しないよう呼びかけたのであるけれども、前叙のような外注紙筒の搬入についての作業所側の出方や、自ら先頭に立つて搬入作業に当つた松島の態度に対比して、右被控訴人等や組合員等は前記のようになんら積極的な物理力の行使に及んだわけでなく、受動的立場に終始し、ただ同人等は作業所側が倉入を断念してくれることを如何に強く望んでいるかを団結の力によつて示した程度のものと考えられ、女子組合員の一部が広場で交渉中の松島に対し多少粗暴な言辞を奔したのも、さきに述べたように作業所側が支部との申合せがあるにもかかわらず、紙筒の外注を実施し、その後の支部との交渉がまとまらない間に密かに外注紙筒を倉入しようとしたことに対するこれと直接の利害関係にある組合員等の憤激の現われであり、更には前記のように松島が全く作業所側に立ち真向から組合員の意思を排除しようとする態度に対する反撥の証であつたものと推測するに難くなく、ビケッティングの場で目前に外注紙筒が倉入されようとするのを見た組合員の一部が思い余つて悪口を放つたとしても止むを得ないとするほかはない。しかも、松島課長心得は大庭課長等と共に平穏に右被控訴人等と倉入についての交渉を続けていたのみであるから、右女子組合員等の言動によつて特にいう程の心理的圧力を受けたものとは考えられない。そして、右被控訴人等が松島課長心得や大庭課長等と交渉した態度が脅迫的であつたとも見受けられない。してみれば右倉庫前のピケッティングも以上認定の諸般の状況に照らし未だその正当な範囲を逸脱したものとはなし難い。なお、女子組合員が勝手に職場を放棄したものではないことは前認定のとおりである。

叙上の通り本事件における指名スト、社宅前のピケッティングは勿論、倉庫前のピケッティングも正当な争議行為の範囲を逸脱したものとはなし得ないし、前記被控訴人等の各個の行為も右争議行為又は紙筒の取扱に関する平穏な交渉の範囲を出たものではなく、特に違法不法な点は存しないから、右被控訴人等の行為をもつて支闘委員乃至は個人の立場から控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当せしめることはできない。ましてその余の被控訴人等に本事件に関して右事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(8)  五月五日外注紙筒倉入阻止事件(同日四号倉庫前にて外注紙筒の倉入を阻止し業務を妨害したとし、被控訴人野村、紺野、阿座上、斎藤(直)、斎藤(孝)、今田、田川に対してその実行行為の、被控訴人全員に対しその計画、謀議、指令の責任を問わんとするもの)

成立に争いのない疎甲第一二三号証の一、三乃至五、第一二六号証の一乃至三、疎乙第三一号証の三、いづれも成立を認め得る疏甲第三三、第八五号証、第九四号証の一乃至七、第九七、第一〇六号証、第一二四号証の二、第一四一号証、疏乙第一七号証の四、第一八、第四六、第五七、第八三号証の各一、二、第八四、第八五号の各一、二、三、第八六、第九五号証、原審証人桐生戦、大庭忠達、美川重夫、繩田正雄、原審並びに当審(第一、二回)証人松島俊三、当審証人津室里子の各証言、原審における被控訴人野村宏(第一回)、紺野坦、阿座上正人、斎藤孝子、斎藤直、今田常雄、田川保彦各本人の供述に弁論の全趣旨を綜合すると、紙筒工室においては五月五日も怠業実施中であり、支部は前記(7)事件で認定したところの外注紙筒の倉入は怠業の実効を減殺するものであるから、これに対しては紙筒工室を部分ストに入れ、その組合員でこれに対抗するという態度をかえておらず、当日も被控訴人斎藤(孝)外二名の女子組合員が朝から四号倉庫附近で見張りに立つていたこと、前示松島課長心得は午後二時三〇分頃右三〇日に倉入できなかつた外注紙筒を搬入するため、該紙筒を積んだまま前記車庫に入れてあつたトヨペットを前掲植野運転手に運転せしめ、自らこれに同乗して四号倉庫前に到り、三〇日と同様、車をバックさせその後部を倉庫入口に向けた上停車させて車から降り、紙筒を倉入しようとしたこと、折柄斎藤(孝)及び女子組合員一名が扉の前に立ちふさがつたので松島はそんなことをしないで倉入させてくれと言つたが、斎藤(孝)はこれをききいれず、たがいに倉入させてくれ、しないでくれ、といい合つていたこと、一方当日は支闘委員長の被控訴人津曲は上京不在のため、支課副委員長の被控訴人野村が同委員長の職務を代行していたが、野村は大庭課長の了承を得て午後二時二五分頃から紙筒工室組合員に争議追行上の注意を与え、二時三〇分頃退室したところ、その直後室外から外注紙筒が入つたとの声が聞えたので、同工室女子組合員等は三〇日と同様指令があり次第ピケットに参加しようとして一斉に立上り、なかには室外へ飛出そうとした者もあつたが、右工室を出たばかりの野村は直ちに同工室に引返し、組合員等に対し紙筒工室を部分ストに入れる旨指令し、内七名の女子組合員には職場の整理をしてから職場から離れるよう命じ、その余の女子組合員等には直ちに四号倉庫前に赴くよう命じたこと、そこで三〇数名の女子組合員は右倉庫前に駈付け、美川係長も同工室から出てきたが、野村から右部分ストの旨を告げられたのでこれを大庭課長へ電話で通知したこと、右女子組合員等は斎藤(孝)を中心に倉庫前附近に集り、松島課長心得に対し外注紙筒は倉入しないよう呼びかけ、中には松島の態度を非難しこれに悪口を放つ者もあつたが、直ぐ野村が倉庫前に来て松島に右紙筒を倉入しないよう申入をし、続いて大庭課長や桐生勤労課長も同所に来たので、倉庫前広場で右課長等とも紙筒の倉入について交渉を始めたこと、すると、松島は倉入についての交渉は右両課長に委せ、自分は後にきた山末原料課長等と所携の写真機で組合員等の状況を撮影していたこと、やがて被控訴人阿座上、今田、紺野、斎藤(直)等の支闘委員も駈付けて右交渉に加つたこと、右の現地交渉では、支部側は紙筒は右倉庫に入れないで川東工場へ運ぶか、さもなくば車庫へ返してくれと主張し、作業所側はどうしても右倉庫に搬入すると主張して互に譲らなかつたこと、松島はこの交渉の途中所用のため倉庫事務所に引揚げたこと、右広場で支部と作業所との交渉が継続中、女子組合員等は倉庫前においてスクラムを組み労働歌を合唱して気勢をあげ、二、三の者はトヨペットに積まれた無蓋箱に入つている外注紙筒をつまみあげこんな物が使えるかと悪口を言つたこと(但しこれを握りつぶし又は外へ投げ捨てる等紙筒を損壊又は散逸させてはいない。)、前記現地交渉が簡単にまとまらないので、桐生課長は事務所において交渉を続行したい旨申入れ、支部側もこれに応じ、野村は、阿座上等が支部代表として事務所に赴き、大庭、桐生課長等作業所側と交渉を続けたこと、この間トヨペットはそのまま倉庫前に置かれ、女子組合員等も立去ることなく倉庫前で交渉の結果を待つていたこと、事務所での交渉の結果、支部はトヨペットに積んである外注紙筒の倉入を認める代りに作業所は右紙筒の倉入をしても二日間これを使用しないということで双方が折合い、午後五時三〇分頃大庭課長、野村副闘争委員長、及び女子組合員代表一名が立合の上、トヨペットに積載していた紙筒を倉庫内に搬入したことは一応認められるが斎藤(孝)が倉庫扉の鍵を握つて放さなかつたこと、前記被控訴人等が松島課長心得その他の課長に対し威迫的な交渉態度を示したり、なんとしても紙筒を地面におろせと言つたこと、被控訴人等若しくは女子組合員等が厳重なスクラム態勢をとり又松島に対し積極的な物理力を行使したことについてはこれを認めることができない。しかして、右認定に反する前示証人、本人の各供述部分並びに疎甲乙各号証の記載部分はいづれも措信できない。その他右認定を左右するに足る資料はない。

そこで本事件が正当な争議行為の範囲内のものであるかどうかについて考えるに、右認定の事実によれば、本事件のピケッティングも(7)事件について述べたと同様怠業の実効確保のため賃上闘争の一環として行われたものであり、当日松島課長心得は一作業員としての代替労務を提供していたものであるということができる。そして斎藤(孝)が倉庫扉前に立つて倉入反対の意思を表明し、女子組合員等が三〇数名右斎藤の側から松島に倉入しないよう呼びかけ、或は多少粗暴な言辞を奔したことは前記のとおりであるけれども、松島の行動には前示(7)事件で述べたようないきさつがある上、組合員等が厳重なスクラム態勢をとつたわけでもないのであるから、これをもつて脅迫又は多衆の威力を示して松島の意思を拘束したものとは認められず、又右組合員等は松島に対してなんら積極的な物理力の行使に及んだわけでもないのであるから、前示三〇日の場合と同様自分達の強い希望を団結によつて示威した程度を超えるものとはなし難く、前記被控訴人等が作業所側課長及び同心得等と広場で交渉している間に右組合員等が労働歌を合唱したのも、殊更右課長等を歌声で圧迫を加えようとしたわけではなく、交渉が行われている所から、やや離れた扉前附近のしかも野外で女子の三〇数名が歌つていたのであるから、これも組合員の団結力を示威して右控訴人等の交渉を側面から声援した程度のものに過ぎない。又二、三の女子組合員が紙筒をつまみ出し悪口を云つたのもさきに述べた紙筒倉入に至る経過に照らせば、自ら紙筒生産に当つている右組合員等の強い反対を押切つて外注した紙筒を自分達の意思に反して持込まれたことに対する反感、憤懣の現われであることが容易に推測できる上、右紙筒やその外箱は全然損壊されてはいないのであるから、前記のような高潮した雰囲気の中で二、三の者がそのような行動に出でたからといつて、これを特に脅迫乃至暴力の行使であるとみるは妥当でない。一方松島は当初は組合員が納得すればすぐにでも倉入しようとしていたが、斎藤(孝)や野村と交渉しているところへ大庭、桐生両課長が来て右課長等が支部と交渉を始めてからはその処置をこれに委ねており、被控訴人等と右課長等との交渉は平穏に続けられているし、事務所での交渉の結果支部も倉入を認めて紙筒は倉庫に搬入されているのである。その他全体を通じて険悪な状態は存しないのであるから、右のピケッティングが多少喧噪にわたつたところがあつたにしても、未だピケッティングの正当な範囲を超えたものとはなし難い。なお、右のピケッティングに際し前記の経過で紙筒工室の部分ストを実施しその組合員をこれに参加させた支部の態度を敢えて非難し得ないことは三〇日の場合と同様である。

叙上のとおりであるから、当日のピケッティング乃至交渉も未だ正当な範囲を逸脱した違法なものとはなし難く、前記被控訴人等の各個の行為に特に違法不当な点があるとも言えない。従つて、右被控訴人等の行為を捉えて支闘委員乃至は個人の立場から、これを控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当せしめることはできないし、ましてその余の被控訴人等に本事件に関して右事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(9)  四月九日以降紙筒工室出来高低下事件(同日以降故意に紙筒工室の作業能率を低下せしめ、出来高を著しく減少せしめたとし、被控訴人全員に対しその計画、謀議、指令の責任を問わんとするもの)

控訴人は四月九日から五月五日までの間の紙筒生産数は平均基準量を下廻るもので、これは支部が本部指令に基かずしてなした違法な怠業の結果であると主張する。しかして、成立に争いのない疎甲第九一、第一二二号証、成立を認め得る疎乙第一九号証の一、二、原審証人大庭忠達の証言によれば、四月九日から五月五日までの間における紙筒の一人当り平均生産本数がほぼ左記のとおりであること。

月日

出来高

月日

出来高

四・九

三、〇三八本

二一

八九一〃

一〇

三、〇五二〃

二二

〇〃

一二

三、二二八〃

二三

一、八九八〃

一三

三、〇六五〃

二四

一、八五二〃

一四

二、五〇一〃

二六

一、八四〇〃

一五

二、六五七〃

二七

九五五〃

一六

二、二九六〃

二八

一、七五〇〃

一七

八四二〃

三〇

一、〇七九〃

一九

二、二一八〃

五・四

一、六六九〃

二〇

九二八〃

九四五〃

又紙筒巻作業は年間平均一日一人当り約三、二〇〇本を基準に生産が行われていることが一応認められる。しかし、四月一七日から五月五日までの間は、支部がその指令により賃上闘争の一環として紙筒工室における紙筒巻作業の怠業を実施していたもので、右怠業が正当な争議行為であることはさきに認定したとおりであり、右疎明資料によれば紙筒工室では右怠業のほか、一七日には四時間ストライキ、二二日には五時間三〇分のストライキ(このうち一時間三〇分のストライキについては控訴人は(10)事件の(イ)指名スト事件としてその違法を主張しているが、これは後掲のとおり正当な争議行為であり、当日の生産が零となつているのは、右五時間三〇分にわたるストライキのため、各人の紙筒生産がこれを収納する箱の一箱の数量に達しなかつたためで、全く作業しなかつたわけではない。)、二七日には三時間ストライキ、三〇日には前示の部分ストが行われており、これ等の怠業とストライキが重なり合つて紙筒の生産が低下したものであるといい得るから、この間の生産低下について被控訴人等に責任を問うことはできない。

次に四月九日から一六日迄の生産量についてみるに、前記疎明資料によれば一三日までは三、〇〇〇本台であつたが、一四日ないし一六日はいづれも二、〇〇〇本台に低下していることが認められる。しかし前示疏甲第九一号証を精査してみると、三月二二日から四月八日までの作業日数一五日間のうち右基準量以上の生産を示しているのは八日間に過ぎず、三月二三日は二、五七七本、二五日は二、九二三本、二六日は二、四六八本、二九日は二、八六六本、三一日は三一九三本、四月六日は三、一八一本、八日は二、九八三本であつて、当時においては基準量が平均して生産されていたとは認められないし、又怠業が終了した五月六日以降においても三、〇〇〇本を超える日は殆どなく、特に賃上争議妥結後の六月になつてからも三、〇〇〇本以上の日は極くわづかであつて、多くは二、〇〇〇本台の生産量であつたことが認められる。従つて、三月から六月までを通じてみると四月九日から一六日までの間の紙筒生産数は多少低下した感はあるけれども著しい低下ではなく、その直後四月一七日ないし五月五日の怠業中の生産数が一九日を除いてすべて一、〇〇〇本台或は一、〇〇〇本以下であるのに比較すると可成り高い生産数を示しており、一七日を境としてその前日までと同日以後では紙筒生産数に相当の差異があるということができる。控訴人は右四月九日から一六日までの間の減産についても、それは支部のほしいままにした指令による怠業の結果である旨主張するが、成立に争いのない疏乙第一三号証の二、第九三号証、成立を認め得る疏甲第三四、第九七、第一〇三号証、当審証人小田敏子、福久力男の各証言、原審における被控訴人阿座上正人、津曲直臣(第一回)、野村宏(第一回)各本人の供述を綜合すると、紙筒工室女子組合員等はさきに(5)事件において述べたように紙筒外注問題をめぐつて不安を抱きながらも、作業所の外注に理由を与えないようにと作業時間外にまで作業を行つたり、更には支部のこの問題についての交渉態度に満足せず、自ら職場対策委員を選出し、同委員が中心となつて作業所や支部の内外に対し職場として紙筒外注に反対する旨を訴えて来たものであるところ、四月七日右女子組合員等は既に社宅で外注紙筒巻作業が行われていることを知り、作業所が支部と改めて紙筒外注問題について協議する旨の申合せをしておきながら、一方においては更に外注を推進するのであれば自分達も今までの時間外の作業等労働強化をしてまで生産量を上げるという態度をやめようと話合い、紙筒工室では四月八日頃から自主的に労働強化にならない程度の作業量に止めることを申合せて作業するに至つたため、多少の生産低下を来たしたものであることが認められ、右認定に反する疏明資料は採用できない。尤も、かような事情から判断すると、前示九日から一六日までの生産低下は、支部が積極的に指令してこれを行わせたものではないけれども、支闘委員においても右の紙筒外注問題にからむ紙筒工室の作業態度を知つていたであろうことは容易に推認し得られたところで、支部は一応同工室のこの動きを知りながら、これを黙過していたと考える外はないから、支部において組合員の統制、掌握に欠ぐるところがなかつたとはいえない。しかしながら、既に述べたように、作業所においても支部との申合を無視してまで紙筒の外注作業を行わせて労使間の信義を裏切り、美川係長も組合員でありながら作業所の意をうけてその外注に積極的に協力して支部の統制を紊したものであるから、紙筒工室の女子組合員等がこの作業所や美川係長の態度に対する不満、激昂を押え切れず、右のような職場運動に出たとしても、同組合員の立場としてはやむを得ないところであるし、又支部としても右組合員等の不満、憤激をむげに押え得なかつたのも無理からぬところがあり、前記のように紙筒生産低下の量もそれ程著しいものではないことを考え合せると、支闘委員である被控訴人等が紙筒工室女子組合員等の右行動を黙過したことを以て被控訴人等が故意又は重大な過失によつて紙筒の生産低下を招来せしめ会社に損害を与えたと非難することは妥当でない。

叙上のとおりであるから四月九日以降五月五日までの紙筒生産低下に関し被控訴人等に控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(10)  指名スト事件(各種の常規を逸したる指名ストを行い業務を妨害したとし、被控訴人全員に対しその計画、謀議、指令の責任を問わんとするもの)

本件にいわゆる指名ストとは、支部において支闘委員長が本部から委嘱された部分スト指令権に基き、特定の組合員を指名してその者に業務を放棄せしめることによつて行つたストライキをいうことは当事者双方の主張自体かう明らかである。しかして、一般にいわゆる部分ストとは、企業の一部門におけるストライキをいい、争議戦術としてはしばしば行われ、ストライキ実施の方法の一として正当なものと解せられる。ところで、多数の作業所を有する企業において単一の組合が組織されている場合、そのうち或る作業所の全組合員をストライキに入れることも企業全体、組合全体から見れば一つの部分ストであるけれども、或る作業所の一の課、係又はそのうちのある職場の組合員のみをストライキに入れることも又企業の一部門のストライキとして同じく部分ストと言い得べく、さらにそのストライキの範囲を縮限し或る職場における特定の組合員を指名してその者だけをストライキに入れるいわゆる指名ストもやはり一種の部分ストである。従つて、右の指名ストは特異のストライキ形式ではあるけれども、それが組合の指令に基き、その組織的行為としてなされる限りはやはり組合の争議行為として正当なものといわねばならない。しかし、ただ指名ストの実施方法如何によつては一般の部分ストでは見られない危害発生の可能性も考えられ、殊に作業所は火薬工場であるからこの点特に注意すべきであるけれども、既に冒頭に述べたところから明らかなように火薬工場であるというだけで、指名ストの正当性そのものを狭く解するわけにはゆかないから、この場合も一般労働争議の法理に照らし指名ストの行われた当該部門、時間、人員等を考慮して危害の発生又はそのおそれの有無を具体的に判断しなければならない。しかして、本件賃上闘争に際し組合と会社との間に部分スト、殊に作業所の爆薬製造の流れ作業の中断を来すおそれのある部分ストは実施しない旨の争議協定が締結されなかつたこと、本件において支部が控訴人主張の(イ)乃至(チ)の指名ストをその主張の日時にその主張の組合員を対象として実施したこと、被控訴人津曲が前顕桜指令第九号により支闘委員長として本部から部分スト指令権を委嘱されており、本事件各指名ストはいづれも右指令権に基いてなされたものであることは当事者間に争いがなく、且つ右のように指名ストは部分ストの一種であるから、支部が右部分スト指令権に基いて本事件各指名ストを実施したこと自体なんら違法はない。そこで、以下その目的、手段方法に控訴人主張のような違法があるかどうかを本事件各指名ストにつき検討する。

(イ) 四月二二日紙筒工室指名スト(当日午前一〇時四五分、支部は作業所に対し「一一時から一二時三〇分まで紙筒工室の組合員五一名に対する指名ストを行う」旨電話通告し、午前一一時よりこれを実施)について

まづ、控訴人は本指名ストは賃上闘争のための部分スト指令権を外注紙筒反対闘争に濫用したものであると主張するが、前示のように本部では賃上闘争を重点的に展開することとし、支部でもオルグの指導によつて材料係紙筒工室を闘争の一拠点としてこれを進める方針をとつていたのであるから、争議の情況に応じて紙筒工室組合員を指名ストに入れることは当然であり、支部が従来紙筒の外注に反対していたからといつて、本指名ストを賃上闘争とは無関係な外注反対のためにのみしたスト権濫用とはなし得ない。

次に、控訴人は本指名ストは僅か一五分の余裕しか置いていないから、信義則及び法益権衡の原則に反すると主張する。成立を認め得る疎乙第二〇号証の二、原審証人桐生戦の証言によれば、午前一一時から実施された右指名ストの通告が一〇時四五分に桐生勤労課長に対してなされていることが認められるけれども、組合の本部及び支部において争議行為実施の都度一定時間の余裕を置いて事前にその通告をなすべき旨の協定があることについては疎明がなく、これがため本指名ストのために当日生産された爆薬が包装できず、これを廃棄したことや、会社が特に過大な損害を蒙つたことについてはこれを認めるに足る資料がない。しかも、指示証人大庭の証言によれば紙筒の生産は填薬、包装と直接流れ作業によつてつながつているわけではなく、それぞれ別個に作業が行われていて、通常紙筒は一定のストツクも保有されていることが一応認められるから、以上いづれの点からみるも、本指名ストをもつて信義則、法益権衡の原則に反する違法なものとはなし得ない。よつて、控訴人の右主張はいずれも採用できない。

(ロ) 四月二四日捏和工室指名スト(当日午後一時一〇分支部は作業所に対し「本日午後二時より四時三〇分まで製薬課膠質係捏和工室組合員全員の指名ストを行う」旨通告し午後二時からこれを実施)について

控訴人は本指名ストは火薬類取締法規や火薬工場の危険性を無視して強行したものであるから、スト権濫用として違法であると主張するが、本指名ストの開始までに安全処置がとられていることは控訴人の自認するところであり、本指名ストによつて捏和工室又はその前後の作業工程においてその主張のような法規違反又は危害発生のおそれの具体的事実があつたこと、休憩時間を含む五〇分間の余裕では、技術的見地からみて作業予定を変更することが不可能で、危害発生のおそれの増大が客観的に予見できることについての疎明がない。しかして、成立に争いのない疎甲第九二号証の一乃至五によれば本指名ストの実施に際しては組合員等はすべて安全且つ完全な処置を確認した上職場を離脱したことを大庭製薬第一課長が証明し、更に作業主任もこれを確認していることが認められるから、本件指名ストは安全に遂行されたものという外ない。なお、危険な作業を行う部門に指名ストを実施したというだけで直にスト権を濫用したものといい得ないこと勿論で、この点からも本指名ストを違法視することはできない。よつて控訴人の右主張は採用できない。

(ハ) 四月二七日膠質係主任心得指名スト(当日正午被控訴人有福は製薬課第一課長大庭忠達に対し製薬課膠質係主任心得である松本茂、鶴崎好幸、金子忠男、浜井岩一の四名を午後一時三〇分から四時三〇分まで指名ストする旨通告し、一時三〇分からこれを実施)について

控訴人は本指名ストは火薬取締法規や火薬工場の危険性を無視して強行したものでスト権の濫用として違法であると主張する。いづれも成立に争いのない疎甲第九二号証の六、疎乙第二二号証の一、いづれも成立を認め得る疎甲第八六、第八七号証、疎乙第二二号証の二、三、原審証人大庭忠達の証言、原審における被控訴人津曲直臣(第一回)本人の供述を綜合すると、四月二七日正午、被控訴人津曲は電話をもつて作業所長に対し、同有福は製薬課工務室において口頭をもつて大庭製薬第一課長に対し、それぞれ本指名ストの通告をし午後一時三〇分からこれを実施したこと、膠質係には職制上主任一名、主任心得四名がいるが、本指名ストによりその主任心得である松本、鶴崎、金子、浜井の四名が職場を放棄したものであること、津曲及び有福はそれぞれ右ストの通告をなすに際し、作業所に対し保安上のことについては組合側も充分考慮するから必要があれば申出てもらいたい旨申入れ、この点については所長も担当課長である大庭も了承したが、その後保安につき作業所側から支部側になんの申入もしていないこと、当日大庭課長は本指名ストの実施に際し右四名が担当職場離脱後における安全且つ完全な処置を確認した上職場を撤退したものである旨の証明書(職場離脱証明書)を支部に与えていること、当日の膠質係の作業は残りの主任と大庭課長の直接指揮によつて安全に続行されていることが一応認められ、支部が特に作業混乱を目的として本指名ストを行つたこと、本指名ストによつて作業管理に著しい困難を来し、作業が混乱し、具体的に危害発生のおそれが生じたことを認めることができない。右認定に反する前示証人の供述部分並びに疎乙号各証の記載部分はいづれも措信できず、他に右認定を左右するに足る資料はない。従つて、当日の指名ストによつて膠質係における作業能率が多少低下したであろうことは推測されるが、この程度のことは争議行為の当然の結果であつて、その故に本指名ストがその正当性の範囲を逸脱したものとはなし得ず、そしてまた膠質係における主任心得に対する指名ストであるというだけで本指名ストをスト権の濫用であるともいい難い。従つて、控訴人の右主張は採用できない。

(ニ) 四月三〇日外注紙筒運転手指名スト(当日被控訴人阿座上は前記(7)事件において述べたように桜ケ原社宅前道路上においてトヨペットを運転しようとした運転手植野康人を指名ストに入れたもの)について

控訴人は本指名ストは紙筒外注反対闘争の手段としてこれを行つたもので、スト権の濫用であると主張する。しかし、被控訴人阿座上が外注紙筒を組合員の手で搬入させないために同津曲の発した指令を伝達して植野運転手を指名ストに入れたものであることは前掲(7)事件において述べたとおりであるけれども、前記のように当時紙筒工室においては怠業の実施中であり、作業所が外注紙筒を外部から搬入し使用することは怠業の実効を減殺せしめるものであるから、支部が右紙筒の運搬を拒否し得ない組合員を指名ストに入れることも怠業の効果を確保し賃上闘争を有利に導くための手段であるということができ、本指名ストをもつてスト権を濫用したものとはなし得ない。次に、控訴人は当の組合員にも予め了解を与えず、瞬時に指名ストに入れることは違法であると言うけれども、右植野が組合員である以上、前記四月三〇日昼休中の臨時組合大会で外注紙筒の運搬拒否の方策が確認されたことを当然知つている筈で、本件のような場合には指名ストに入ることを予期していたと考えられる上、本指名ストの場合その場で直ちに業務を放棄させない限り運搬阻止の目的を達し得ず、前記のとおり支部に協定による事前の通告義務は存しないのであるから、本指名ストが瞬時に行われたという理由でこれを違法とすることはできない。よつて、控訴人の右主張はいずれも採用し得い。

(ホ) 四月三〇日労休代位スト(四月二九日午後支部は作業所に対し翌三〇日製薬第一課の丸尾千鶴子、江崎孝子を労休にしてもらいたいと申入れたが、三〇日朝作業所から作業の都合で右申入を拒否されたので、同日午前一〇時四〇分より右両名を指名ストに入れたもの)

(ヘ) 五月五日労休代位スト(五月四日午後支部は作業所に対し翌五日製薬課膠質係の植野稔、真鍋美智子を労休にしてもらいたいと申入れたが、五日朝作業所から既に当日の作業人員が決定しているので都合がつかないからと右申入を拒否されたので、同日午前八時三〇分から午後四時三〇分まで右両名を指名ストに入れたもの)

(ト) 五月二六日労休代位スト(五月二五日午後二時頃支部は翌二六日組合員一九名を労休にしてもらいたいと申入れたが午後四時三〇分頃作業所からかかる多数の労休は作業に支障を来すからと内一〇名についてのみ承認され他は拒否されたので、午後五時一〇分頃残り九名については翌二六日午前八時三〇分より指名ストに入れる旨作業所に通告し、二六日右指名ストを実施)

について

控訴人は(ホ)(ヘ)(ト)の各指名ストはいづれも労休申入の拒否に対する報復としてなされるものであるからスト権の濫用として違法であると主張する。しかし、成立を認め得る疎乙第二四号証の三、第二五号証の二、原審証人三戸東治、桐生戦の各証言、原審における被控訴人津曲直臣(第一回)本人の供述によれば、右指名ストはいづれも支闘委員会において翌日からその組合員に組合業務を行わせることを予定し、労休を申入れて許可されればそれにより、拒否された場合にはその者を指名ストに入れることとし、それぞれ前日作業所に当該組合員の労休を申入れ、作業所が四月三〇日及び五月五日の分は両名共、五月二六日の分は一九名の申入れに対して九名について労休を与えることを拒否したので実施したものであり、右指名ストに入つたものは各当日いづれも組合業務に従事したことが認められから、右の各指名ストが単に労休申入の拒否に対する報復を目的としたものとはいえないし、且つ賃上闘争中のストライキであるから、これによつて会社側に苦痛を与える意図があつたとしてもそれは右闘争を有利に展開させるためむしろ当然のことと考えられるから、右三件の本指名ストをもつてスト権を濫用したものとはなし難い。よつて控訴人の右主張は採用できない。

(チ) 五月一〇日外注紙筒運搬員指名スト(当日外注紙筒運搬のため作業所内九号倉庫に来た従業員山田大蔵、河口正助、岡田定、井村隆、赤間敏光の五名に対し実施したもの)について控訴人は本指名ストは紙筒外注反対のための闘争手段でありスト権の濫用であると主張する。しかし、成立を認め得る疎乙第二六号証の一、二、原審証大庭忠達の証言によれば、本指名ストに入つた五名の組合員は外注紙筒の運搬に従事しようとしていた者であること、該スト指令は他の本件各指名ストの場合と同様前記の本部発桜指令第九号に基く春期賃上闘争指令に基くものであつて、支闘委員長被控訴人津曲が発し、これは先づ被控訴人有福から口頭をもつて右運搬作業現場にいた前顕大庭課長に通告され、次いで文書により作業所長に通告されていることが一応認められる。しかして、いつ、いかなる時に、誰を指名ストに入れるかはその指令権を有する支闘委員長(支部長)の権限であつて、支闘委員長は賃上闘争の推進上有利であると判断した部門でこれを行い得るのであるから、たとえ前叙の紙筒外注問題が未解決であつた当時であつても、外注紙筒の運搬に当ろうとした者を指名ストに入れたというだけで、直ちにこれを紙筒外注のための闘争手段と断じ、賃上闘争におけるスト権を濫用したものとなす所論は失当である。よつて控訴人の右主張は採用できない。

右のとおりであるから、(イ)乃至(チ)の指名ストがいづれも会社の基本権を侵害せんとする悪質な害意のみを以てされた違法な争議行為であるとの控訴人の主張は理由がない。従つて、本件各指名スト実施に関し被控訴人等に控訴人主張のような懲戒解雇事由に該当する事実があるとはなし得ない。

(三)  総括的判断

控訴人は、本件各事件はいづれも被控訴人等の一貫した指導方針のもとに会社の経営秩序の攪乱と業務妨害の害意により反覆累行された相関的積極的業務妨害戦術で会社の経営権を否定した業務管理に通ずる職場支配で高度の違法性を有する旨主張する。しかしながら、既に述べたように、本件各事件のうち、争議行為はすべて春期賃上要求貫徹のためのもので、会社に対する加害のみを目的としたものとは認められず、その他の被控訴人等の行為においても被控訴人等に右のような意図目的があつたとは考えられない。又前叙のとおり本件各事件によつて会社の経営が麻痺乃至破壊された事実は全くなく、被控訴人等が火薬工場としての作業所の危険性を無視した行為に及んだ事実も認め得られない。よつて、本件各事件をもつて一貫した指導方針により反覆累行された積極的業務妨害戦術或は業務管理に通ずる職場支配であるとの控訴人の主張は採用し得ない。

更に又、控訴人は仮に本件各事件が個々の事件としては軽微であるとしても、これが前記の意図目的を以て反覆累行されたものである以上、被控訴人等の本件各行為は全体として懲戒解雇事由に該当する旨主張する。しかし、前叙のように被控訴人等の本件各行為に控訴人主張のような被控訴人等の意図目的があつたとは認められないばかりか、被控訴人等の行為のなかには多少の行き過ぎや遺憾の点がないではないが、これもそれぞれについて述べたような事情の下で行われたいづれも軽微なもので恕すべき点があり、しかもその数も極くわづかに過ぎない。従つて、作業所の火薬工場としての特殊の危険性を考慮に入れても、被控訴人等の支闘委員又は個人としての行為を累計集積することによつてこれを懲戒解雇事由に該当せしめることはできない。

第三、解雇の効力

前記説示のとおり被控訴人等に控訴人主張の就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する事実が認められないとする以上、被控訴人等主張のその余の本件懲戒解雇の無効理由(本件懲戒解雇が不当労働行為であり、協約所定の懲戒手続違反であり、又懲戒として著しくその裁量を誤つたものであるとの主張)に対する判断をまつまでもなく、本件懲戒解雇はいづれも就業規則の適用を誤つた無効なものといわねばならない。

第四、仮処分の必要性

各成立を認め得る疎甲第四八号証、第四九号証の一乃至九、第一〇八、第一〇九号証、第一一〇号証の一乃至六、第一五二号証の一乃至八、原審証人岡本京一の証言、原審における被控訴各本人(被控訴人津曲直臣、有福正人、野村宏は各第一回)の供述を綜合すると、被控訴人等はいづれも特別の恒産を有せず、従来から会社を唯一の職場として会社から支給される賃金によつて生活を維持していたものであること、このうち被控訴人有福及び紺野は本件当時組合専従者であつたけれども、本件解雇後その地位を失つていること、又被控訴人阿座上は現に組合専従者ではあるが、同人も会社の従業員として勤務することが主目的で組合専従は第二次的なものであるといえるし、有福や紺野の場合のようにいつ組合専従を解かれるかも知れないという不安な状態にあること、原判決言渡後の昭和三〇年一一月七日まで阿座上を除く被控訴人等が組合から従来の賃金とほぼ同額の金員の交付を受けていること、阿座上も組合専従者の地位を失えば右金員の交付を受けられることになつていること、しかし、組合が右金員の交付をしていたのは、組合では本件解雇は従前の組合規約に基く「組合運動犠牲者救援規定」の適用を受くべき馘首とは認められないとし、被控訴人等の救済についてはこれと別個に昭和二九年一二月一五日から三日間厚狭支部で開催された組合中央委員会において特に「不当処分対象者の給与保証に関する規定」を定め、これに基き会社側の解雇処分の撤回又は本件仮処分命令確定までの一時的措置として従来の給与とほぼ同額の金員(時間外勤務手当、作業手当等本給以外に得ていた金額については考慮されていない。)を被控訴人等(阿座上を除く)に貸与しているに過ぎないこと、被控訴人等(阿座上を除く)は昭和三〇年一一月七日会社から解雇以降の未払賃金相当額の支給があり、以後毎月二五日には解雇当時の各月額賃金相当額の支給を受けていること、しかし、解雇後の定期昇給及び期末賞与相当額の支給はこれを受けていないこと、従つて、右以後被控訴人等(阿座上を除く)は解雇がなかつたとすれば受くべかりし昇給及び期末賞与相当額を依然前記規定により組合から借受けていること、以上の組合の貸与金の資金は月々全組合員から従来の組合費、闘争積立金等の外に本件懲戒解雇に関する事件の法廷闘争カンパとともにこれを徴収されるので、組合員の生計にもひびき、その資金徴収の継続は必ずしも容易でないことが認められる。以上の事実からみると、被控訴人等が本案判決確定に至るまで解雇せられたものとして賃金その他で会社の従業員と異る待遇を受けることは著るしい損害であり、その生活上の脅威、精神的苦痛も甚大であるべきことは容易に察せられ、且つ本件解雇の効力が本案判決の確定をみないまま継続していること自体は勿論、更に右徴収金の継続も組合の団結や活動に好ましくない影響を及ぼすことは明瞭であり、このため被控訴人等は他の組合員に対する心理的負担から充分な組合活動をなし得ないであろうことも推認するに難くないところである。従つて、被控訴人等をして従前の会社の従業員たる身分に復するため、本件解雇の意思表示の効力を停止する必要があるものと認める。

第五、結論

以上の次第であるから被控訴人九名の本件仮処分申請は理由あるものとしてこれを認容すべく、従つて、これと結論を同じくする原判決は相当であるから、本件控訴は理由がない。よつて、民事訴訟法第三八四条、第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 柴原八一 池田章 牛尾守三)

別紙(一)

担当職場及び組合地位一覧表

申請人氏名

争議当時の担当職場

争議当時の組合地位

解雇当時の組合地位

津曲直臣

厚狭作業所調査課調査係長(心得)

厚狭支部闘争委員長兼物資部長

厚狭支部支部長兼物資部長

野村宏

同作業所研究課火工品研究係長(心得)

同支部副闘争委員長兼体育部長

同支部副支部長兼体育部長、文化部長

有福正人

(組合専従)

同支部闘争書記長

同支部書記長

紺野坦

(組合専従)

同支部闘争委員兼調査部長

同支部執行委員兼調査部長、生産部長

阿座上正人

同作業所製薬第一課膠質係

同支部闘争委員兼教宣部長

中央執行委員兼中央教宣部長

斎藤直

同右

同支部闘争委員兼農対部長

同支部執行委員兼農対部長

斎藤孝子

同作業所製薬第二課硝爆係

同支部闘争委員兼婦人部長

同支部執行委員兼婦人部長

今田常雄

同作業所建設課設計係

同支部闘争委員兼青年部長

同支部執行委員兼中央執行委員

田川保彦

同作業所製薬第二課硝爆係主任

同支部闘争委員兼文化部長、生産部長

一般組合員

以上

別紙(二)

解雇理由書

一、事件内容

厚狭支部執行委員は次の各事件を計画、謀議しこれが実行を指令し且つ自らも実行した。

(1) 昭和二十九年三月一八日多数の執行委員が労休を濫用して職場を離脱し、電動車の発車を阻止し業務を妨害した。

(2) 同年三月一八日電動車に取付けるベルの購入持帰りを阻止し、またベルの取付を遅くせよと指図する等業務を妨害した。

(3) 同年四月一四日臨時組合大会の時間を許可なく三〇分間延長し且つこれがため労働時間に三〇分喰込みたるに拘らず勝手に平常通りの午後四時三〇分終業を指令し、職場を混乱せしめ業務を妨害した。

(4) 同年四月一九日(イ)並びに二四日(ロ)就業規則に定める勤務開始時限を遵守せんとする従業員の出勤を集団的に阻止し、また四月一九日(イ)この定時出勤阻止行為と相俟つて各職場の鍵箱受領者が鍵箱を受領するのを阻止し、業務を妨害した。

(5) 同年四月八日作業中紙筒工室に無断侵入し作業を中止せしめ業務を妨害した。

(6) 同年四月一九日(イ)、二〇日(ロ)及び二一日(ハ)作業中の紙筒工室に無断侵入し、作業を監視して作業能率を阻害し或は作業を中止せしめ業務を妨害した。

(7) 同年四月三〇日桜ケ原社宅前にて外注紙筒の運搬を妨害し、四号倉庫前にて外注紙筒の倉入を阻止し、業務を妨害した。

(8) 同年五月五日四号倉庫前にて外注紙筒の倉入を阻止し業務を妨害した。

(9) 同年四月九日以降故意に紙筒工室の作業能率を低下せしめ、出来高を著しく減少せしめた。

(10) 各種の常規を逸したる指名スト(イ)乃至(チ)を行い業務を妨害した

二、処分対象者処分理由

津曲直臣

(一) 各事件の計画謀議指令責任

(二) 実行々為責任

(6)事件につき、(ロ)四月二〇日  紙筒工室無断侵入、作業中止

〃(ハ)四月三一日        紙筒工室無断侵入、作業監視、作業能率阻害

野村宏

(一) 各事件の計画謀議指令責任

(二) 実行々為責任

(8)事件につき、(ロ)五月五日   四号倉庫前にて他の執行委員と共に外注紙筒積載のトヨペットの撤去と紙筒を地面に卸すことを強要し、紙筒の倉入阻止

〃                外注紙筒倉入阻止のピケ指導

有福正人

(一) 各事件の計画謀議指令責任

(二) 実行々為責任

(3)事件につき、四月一四日     臨時組合大会時間無許可三〇分間延長の結果労働時間に喰込みたるに拘らず勝手に各現場に午後四時三〇分終業の指令伝達、職場の混乱惹起

(4)事件につき、(イ)四月一九日  就業規則に定める勤務開始時限を遵守せんとせる従業員の出勤を阻止

(6)事件につき、(イ)四月一九日  紙筒工室無断侵入、作業中止

(ロ)四月二〇日         紙筒工室無断侵入、作業中止

(ハ)四月二一日         紙筒工室無断侵入、作業中止

紺野坦

(一) 各事件の計画謀議指令責任

(二) 実行々為責任

(1)事件につき、三月一八日     電動車阻止

(3)事件につき、三月一四日     臨時組合大会時間無許可三〇分延長の結果労働時間に喰込みたるに拘らず勝手に各現場に午後四時三〇分終業の指令伝達、職場の混乱惹起

(4)事件につき、(イ)四月一九日  各職場の鍵箱受領者を阻止

(5)事件につき、四月八日      紙筒工室無断侵入、作業中止

(6)事件につき、(ハ)四月二一日  紙筒工室無断侵入、作業監視、作業能率阻害

(8)事件につき、五月五日      四号倉庫前にて他の執行委員と共に外注紙筒積載のトヨペットの撤去と紙筒を地面に卸す事を強要し、紙筒の倉入阻止

また外注紙筒倉入阻止ピケ指導

阿座上正人

(一) 各事件の計画謀議指令責任

(二) 実行々為責任

(1)事件につき、三月一八日     労休濫用による職場離脱、電動車の発車阻止

(4)事件につき、(イ)四月一九日  就業規則に定める勤務開始時限を遵守せんとする従業員の出勤を阻止

(6)事件につき、(ロ)四月二〇日  紙筒工室無断侵入、有福書記長の行動に同調作業中止

(ハ)四月二一日         紙筒工室無断侵入、作業監視、作業能率阻害

(7)事件につき、四月三〇日     桜ケ原社宅前にてトヨペットから外注紙筒を地面に卸すこと卸さなければ運転してはならぬことを強要し、紙筒の運搬妨害

(8)事件につき、五月五日      四号倉座前にて他の執行委員と共に外注紙筒積載のトヨペットの撤去と紙筒を地面に卸す事を強要し、紙筒の倉入阻止

または外注紙筒倉入阻止のピケ指導

斎藤直

(一) 各事件の計画謀議指令責任

(二) 実行々為責任

(1)事件につき、三月一八日     労休濫用による職場離脱、電動車発車阻止

(3)事件につき、四月一四日     臨時組合大会時間無許可三〇分間延長の結果労働時間に喰い込みたるに拘らず勝手に各現場に午後四時三〇分終業の指令を伝達、職場の混乱惹起

(4)事件につき、(イ)四月一九日  就業規則に定める勤務開始時限を遵守せんとせる従業員の出勤を阻止

〃(ロ)四月二四日        就業規則に定める勤務開始時限を遵守せんとする従業員の出勤を阻止

(8)事件につき、五月五日      外注紙筒倉入阻止ピケ指導

斎藤孝子

(一) 各事件の計画謀議指令責任

(二) 実行々為責任

(1)事件につき、三月一八日     労休濫用による職場離脱、電動車の発車阻止

(4)事件につき、(イ)四月一九日  就業規則に定める勤務開始時限を遵守せんとする従業員の出勤を阻止

(ロ)四月二四日         就業規則に定める勤務開始時限を遵守せんとせる従業員の出勤を阻止

(7)事件につき、四月三〇日     他の女子組合員二名を指導今田常雄を加えて共に四号倉庫前にスクラムを組み、外注紙筒の倉入を阻止

(8)事件につき、五月五日      四号倉庫扉の錠前を握り他の女子組合員一名と共にスクラムを組み外注紙筒の倉入阻止、更にその後紙筒工室女子組合員による外注紙筒倉入阻止のピケ指導参加

今田常雄

(一) 各事件の計画謀議指令責任

(二) 実行々為責任

(1)事件につき、三月一八日     労休濫用による職場離脱、電動車の発車阻止

(2)事件につき、三月一八日     電動車に取付けるベルの購入持帰りの阻止及びベルの取付を遅くせよとの指図等業務妨害

(4)事件につき、(イ)四月一九日  各職場の鍵箱受領者の鍵箱受領を阻止

(6)事件につき、(ロ)四月二〇日  紙筒工室無断侵入、有福書記長の行動に同調作業中止

(7)事件につき、四月三〇日     桜ケ原社宅前にてトヨペットから外注紙筒を地面に卸すこと卸さなければ運搬してはならぬことを強要し、紙筒の運搬妨害また四号倉庫前にて斎藤孝子等と共にスクラムを組み外注紙筒倉入阻止

更にその後紙筒工室女子組合員による外注紙筒倉入阻止のピケ指導参加

(8)事件につき、五月五日      外注紙筒倉入阻止のピケ指導

田川保彦

(一) 各事件の計画謀議指令責任

(二) 実行々為責任

(1)事件につき、三月一八日     労休濫用による職場離脱、電動車の発車阻止

(4)事件につき、(イ)四月一九日  就業規則に定める勤務開始時限を遵守せんとせる従業員の出勤を阻止

(6)事件につき、(ハ)四月二一日  紙筒工室無断侵入、作業監視、作業阻害

(7)事件につき、四月三〇日     桜ケ原社宅前にてトヨペットから外注紙筒を地面に卸すことを強要し、紙筒の運搬妨害

(8)事件につき、五月五日      外注紙筒倉入阻止のピケ指導

以上

別紙(三)

適用条項表

(A) 表

氏名

計画、謀議、指令した事件

就業規則第一二五条

被控訴人全員

(1)・(2)・(3)・(4)の(イ)(ロ)・(7)・(8)・(9)・(10)

第九号、第一〇号、第一四号

(5)・(6)の(イ)(ロ)(ハ)

第三号(第一三四条第七号)第九号、第一〇号、第一四号

(B) 表

氏名

実行した行為

就業規則第一二五条

第三号(第一三四条第七号)

第九号

第一〇号

第一四号

津曲直臣

(6)の(ロ)(ハ)

野村宏

(8)

有福正人

(3)・(4)の(イ)

(6)の(イ)(ロ)(ハ)

紺野坦

(1)・(3)・(4)の(イ)

(5)・(6)の(ハ)

(8)

阿座上正人

(1)・(4)の(イ)

(6)の(ロ)(ハ)

(7)・(8)

斎藤直

(1)・(3)・(4)の(イ)(ロ)

(8)

斎藤孝子

(1)・(4)の(イ)(ロ)

(7)・(8)

今田常雄

(1)・(2)・(4)の(イ)

(6)の(ロ)

(7)・(8)

田川保彦

(1)・(4)の(イ)

(6)の(ハ)

(7)・(8)

備考

1、(B)表中「実行した行為」欄記載の番号は控訴人主張の番号の事件においてその上欄記載の被控訴人がなした行為を指す。

2、就業規則第九章第一二五条、左の各号の一に該当する者は懲戒解雇に処せられる。

但し情状により出勤停止に処せられることがある。

(中略)

三、故意に第一三章の安全衛生に関する規定若しくは指揮に違反した者。

(中略)

九、故意に作業能率を阻害する者。

一〇、故意又は重大な過失により会社に損害を与えた者。

(中略)

一四、その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があつた者。

同第一三章第一三四条、従業員は事業場内では特に左の事項を遵守しなければならない。

(中略)

七、直接関連のない作業場に濫に立入つてはならない。

(後略)

以上

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